癌医療に求められること(3)


不適切な治療選択       

 

セカンドオピニオンを求めて来院した患者の治療内容をみると、治療方法の選択が不適切と思われる場合が多い。がんの治療には大きく分けて、外科手術、放射線照射、薬物療法がある。薬物療法はさらに、抗がん剤、ホルモン剤、抗体製剤、サイトカイン製剤に分類される。外科手術、放射線照射は、がん細胞が腫瘤を形成している部位だけを対象とする治療であるので局所療法と呼ぶ。一方、薬物療法は、全身くまなく効果が及ぶため全身療法と呼ぶ。肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、卵巣がんなどの固形がんは、原発臓器で発生し、細胞分裂を繰り返し増殖し、腫瘤の直径が1-2cmになると、レントゲン写真や、体表から触ってもわかるようになる。この状態を放っておくと、他の臓器に転移するので、早めに見つけて早めに手術しましょう、というのが早期発見、早期手術の考え方である。ところが、他臓器への転移は、実はもっと早い時期、すなわち原発臓器での腫瘤形成と並行して起きている可能性がある、という考え方が乳がんなどで主流となってきた。全身にタンポポの種のように、目には見えないけれども転移が散布されている場合がある、という全身疾患の考え方である。米国では1980年代後半に、「乳がんの初期治療の一環としての抗がん剤、ホルモン剤などの全身治療の重要性」に関する注意喚起が国立がん研究所から出されている。ところが、我が国では、乳がんと診断された患者の99%は外科医師だけにより、治療方針が決定されるため、どうしても手術に重きが置かれざるを得ない。また、専門的なトレーニングを受けていない場合、抗がん剤治療に伴う適切な副作用マネージメントができないという技術的な問題もある。例えば、抗がん剤に伴う悪心・嘔吐を例にとれば、十分な副作用対策を講じた場合、つわり程度のむかむかはあっても嘔吐することはない、という患者が大部分だ。仕事の行き帰りに、抗がん剤点滴を受けている患者も多い。

初期治療の目的は、治癒をめざすことであり、そのためには副作用対策を十分に講じ、有効な治療を併用しなくてはならない。

一方、初期治療後、明らかな遠隔転移、再発病巣が出現した場合、その時点から治癒を達成することは困難な場合が多い。治療の目標は、痛みを和らげるなどの症状の緩和や、仕事や社会活動などの社会生活や、趣味や日常生活を充実させるなどの、QOL(クオリティオブライフ、生活の質)を高めることになる。その為には、なるべく副作用の少ない治療を優先させたり、症状緩和策を十分に行なうことなどが重要となる。決して、この時点で、大量の抗がん剤や、負担の大きい手術を行なうことは、患者にとって、いいことはひとつもない。

 

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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