癌医療に求められること(4)


「目に見えるものは切りましたという詭弁」と「てんこ盛り治療」

遠隔転移を来した場合、外科手術はあまり役立たない。腹腔内に広く拡がった胃がんの転移病巣に対して、外科手術を敢行し「目に見えるものは全部とりました」という説明が、いかにむなしいものか、は、数年前、がん告知で話題をまいた芸能人のケースでも実証ずみであろう。確かに、胃がんは、固形がんのなかでは、比較的、抗がん剤が効きにくい。もし、上記の外科医の対応を腫瘍内科医が「無意味な手術ではないか」、とコメントしたとすると、「抗癌剤では見えるものすら消せないだろう。」というような反論が予想できる。しかし、この反論には、治療をうける側の患者の視点が完全に欠落している。内科医対外科医の対立軸ではない。患者は、意味のある治療を希望しているのである。

一方、抗がん剤やホルモン剤などの薬物療法が進歩したといっても、遠隔転移を伴った状態では、若年男性の睾丸腫瘍や、分娩後の絨毛癌など、極めて感受性の高い一部の疾患以外ではなかなか治癒をさせることは難しいのが現状である。遠隔転移を来した場合、治療目的は、クオリティオブライフ(生活の質)の向上であり、延命である。しかし、遠隔転移を来した患者の治療で、しばしば遭遇するのは、効果のあると思われる治療薬剤をすべてまとめて投与する、てんこ盛り治療である。これでは、何が効いていて、何が効いていないのか、が全くわからなくなってしまう。特に転移性乳がんでは、3-4種類のホルモン剤、4-6種類の抗がん剤が有効であり、これらを如何に効果的に使用していくか、ということが、質の高い延命につながることは検証済みである。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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