癌医療に求められること(5)


グループ診療、チーム医療

 

国立がんセンター病院には、第14期レジデントとして昭和5761日からお世話になった。レジデント(住み込み研修医)の字義どおり、病院内に住み込み、昼夜の別なく入院患者の診療、外来診療の見学・補助、症例カンファレンス、英文抄読会、院内発表や地方学会での準備、など、多忙な日々を過ごした。私の指導者は阿部薫先生(国立がんセンター名誉総長、現在、横浜労災病院長)で、当時、阿部先生の診療グループは「内分泌グループ」と称しており、緩やかなグループ診療制をとっていた。グループ診療とは数名の医師が、診療方針について等しく智恵を出し会い、合議を形成しながら診療を進めていく形態である。主治医制では、主治医以外の医師は、診療方針や、治療内容の最終決定には関与しないのが普通である。「おれの患者、私の先生」という強固な人間関係を好む場合には、グループ診療制よりも、主治医制の方がいいのかも知れない。しかし、がん治療の場合、治療方法の選択については、必ずしも正解が一つとは限らない。いくつかの選択肢の中から、その時々で、最も適切と思われるものを選ぶ過程が必ずある。また、がんに伴う症状や、治療に伴う副作用を正しく把握するためには、薬学的知識や、病態生理を正しい理解が不可欠であり、複数の専門家の経験知の集結が必要である。患者からみると、グループ診療は、担当の医師がころころ代る、主治医不在という印象を持たれることがあるが、そうではなくって、複数の目で見て、複数の頭で考えることのメリットは大きいと思う。

チーム医療も、がん医療ではとりわけ重要である。内科医、外科医、放射線治療医、看護師、薬剤師、などの、専門の異なった医療職が、協調して、治療を進めるのがチーム医療だ。手術後、いつから、食事を開始するか、リハビリをどうするか、抗がん剤治療の副作用対策をどうするか、など、複数の医療職が関与することが多い。ところが、同じ疾患に対する同じ抗がん剤治療なのに、主治医によって、使用する量が違っていたり、吐き気止めの種類や、投与方法が全く異なっていたり、という話はよく耳にする。原始的な病院では、主治医毎に「○○先生用指示」というのが用意され、それぞれの医師の流儀に精通した熟練看護師が病棟を仕切っている。しかし、このような不合理は、医療過誤の温床となる。確かに抗がん剤の投与量やスケジュールの間違いで、患者が死亡した事故の報告は多い。変更を必要とするような医学的な特殊事象がないかぎり、主治医にかかわらず、同じ手順で対応し、過誤の発生するチャンスを少なくする、業務を標準化するため、最近では、クリティカルパスの導入が進められている。がん医療では、グループ診療、チーム医療をもっと導入し、風通しのよい医療を行なうべきであろう。

広告

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中