先生のお考えが理解できません


最近、転移性乳がんの治療について理解に苦しむような対応を経験しました。一人目は脳転移に対してγナイフを依頼した患者さんについてです。骨転移があり、HER2もホルモン受容体も陰性なのでパクリタキセルの投与終了後アレディアの点滴を行い病状の悪化があれば次の抗がん剤としてナベルビンかゼローダをやるような段取りを取ってフォローしていた患者さん、ある日の外来で、3日前から頭痛がする、とくに朝方強い、時に吐き気がある、片足で立つと右側に傾くなど、小脳転移を疑わせるような症状がありました。早速MRIを撮ったところ右小脳半球に3cmぐらい、右前頭葉にに1-2cmの2個転移が見つかりました。すぐにγナイフを実施している病院に電話して診療を依頼、すぐに入院して翌日照射と、素早い対応をしてくれました。翌週、ご主人がお見えになりγナイフ病院から、次のようなことを言われたそうです。「造影剤を二倍量使って詳しくみたら全部で17個の転移があったのでそれらにすべてγナイフ治療をおこないました。もっとはやく見つけていれば治療成績もずっとよくなるのにここまで大きくなってからでは手遅れかもしれません。」 そのγナイフ病院は、治療実績は多数あるらしく「当院での経験では、転移が1-2個の場合の1年生存率は80%、3個から10個だと60%、10個以上だと20%です。腫瘍の大きさも1cm以下なら1年生存率は90%ですが、3cmとなると10%以下に落ちます。」私たち、腫瘍内科医は、脳転移が出た場合に、放射線照射は有力な治療手段であり、最近ではγナイフの登場で全脳照射に比べれば、治療後の脳の萎縮に伴う認知症の発症率は低下する、しかし、脳転移に対する照射目的は、あくまで症状緩和、延命であり、治癒はありえない、と理解しています。早く見つかれば予後がいい、というのは、単にリードタイムバイアスを見ているにすぎないと信じています。したがって、脳転移の検索を症状もないのにルーチンに行う意味はないし、症状が出てからの対応することで、十分、治療目標は達成できる、と考えています。また、17個の病巣を見つけ出し、それらすべてを治療しました、といっても、そのことのどのような意味があるのか、理解できません。
 
2人目の患者さんは骨転移です。骨シンチで、肋骨、胸椎、腰椎、骨盤に多発性のホットスポットがあり、骨転移と診断されました。ホルモン受容体陽性なので、アロマシンを開始することにして、骨盤、腰椎などの加重部位の骨レントゲン写真を撮ったところ、痛みのある腰椎に溶骨性変化が認められました。そこで、アレディアの点滴も加えることにしました。腰椎には、放射線照射をする必要があると判断し、放射線照射設備のある病院の放射線科に依頼しました。照射を依頼した目的は、加重部位の病状進行抑制と疼痛緩和です。Dr. Craig Hendersonによれば、骨転移に対する放射線照射は、In order to prevent further erosion of the bone, すなわち、骨のそれ以上の浸食を食い止めることです。また、国立がんセンター中央病院放射線治療部の加賀美先生は、放射線照射による症状緩和効果を、痛み止め代りに照射する意義をわかりやすく説明してくれます。いずれの大家も、骨転移に対する放射線照射で治癒をめざす、などという発想はなく、私もそのように理解しています。ところが、腰椎への照射をお願いした患者さんが、次の外来に来たとき、体中にマジックインキで照射エリアが記されており、患者さんに聞くと、転移のあるところ、全部で11カ所にきちんと放射線をあててくれるそうです、とのこと。つまり、肋骨とか、骨盤とか、骨シンチで陽性となった部分に、細かく照射野を設定しているのです。いったい何のための照射でしょうか。放射線照射で、治癒を目指すとでもいうのでしょうか。それとも、一昔前に、まことしやかに語られたように、総腫瘍量を減少させることで生存期間が延びる、とでもお考えなのでしょうか。私たちは、放射線治療医との協力無くしてはがん治療はできません。しかし、腫瘍生物学の理解も不十分、リードタイムバイアスすらわからない医師がこうまでたくさんいると、どのように対応していったらいいのか、暗澹たる気分です。相手が外科なら、四面楚歌ならぬ四面外科ですんだのですが、放射線治療科だと、しゃれにもなりませんね。
久しぶりに、いっか~~ん!!! どっか~~ん!!!
 
9月も絶好調、今月もがんばりましょう。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

“先生のお考えが理解できません” への 2 件のフィードバック

  1. γナイフ病院に関しては、基礎からの出直しですね!単に患者さんに不安と不満を与えただけで何の解決にもならい.骨はひどすぎる、乳癌診療ガイドライン 3放射線療法のP63を見たのだろうか?というより、これは放射線医では常識でしょう!ガイドラインもむなしい…..

  2. ガンマナイフを専門にしている脳外科の先生の発表がまったく同じような論旨でした。専門家であればすぐわかる事ですが、患者さんにそのまま話をされると困ることも多いですね。

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