落ちた?講演力


斎藤孝著「話す力」を読みました。コメント力、三色ボールペン活用術、座右のゲーテ、上機嫌の作法など、斎藤氏の本は大方読んでおり「話す力」が店頭に並んだのですぐに購入しすぐに読んだのですが、意味の含有率とか、名講演を分析した解説など、とても参考になりました。
 
今回、「話す力」を読もうと思った理由はもう一つありました。それは、KYRTS薬科大学大学院の講義がとんでもない失敗作だったからです。講義を聴いてくれたオンコロプランの森くんも「今日は渡辺先生、いつもと違ってやりにくそうでしたよ。」と鋭い指摘。いっか~ん。そうなんです、とてもやりにくかったのです。
 
講演や講義にはいささか自信がありました(過去形)。乳がんの薬物療法、臨床試験の方法論、臨床医からみて意味のある統計学、EBM、民間療法、抗がん剤治療、抗がん剤治療をうけるための12ヶ条、情報提供力、などなどのテーマで、医師、看護師、薬剤師、製薬企業、一般市民、患者団体、学生、同窓会、保健所職員、病院職員などを対象とした講演活動は、情報提供として自分の本来業務と考え、かれこれ10年ぐらい前からでしょうか、とても積極的に取組んできていますし、自分自身楽しい活動だと思っています。いろいろな講演すべてを入れると、年間200回ぐらいはあるでしょうか。スライドの作り方も阿部薫先生直伝の諸原則を忠実にまもり、また、名郷直樹先生の講演ネタやスタイルを密かにパクッたりして、皆さんからスライドがとても見やすい、話もわかりやすい、と好評を得ていました(過去形)。
 
ところが、KYRTS薬科大学大学院の講義は全然違ったのです。この講義は半年ぐらい前に依頼され、それなりに準備はしたつもり。講義の前に、呼んで下さったKZ先生から、「演者紹介はしていませんが、いいでしょうか」、と言われたので、「新しい施設に移ったことも含めて自己紹介でやりますから」ということにしました。それで、超略歴と浜松オンコロジーセンターの紹介を2-3枚のスライドを使って、講義を始めたのでした。最初のスライドを映して、最初の1行の説明をして、会場を見渡してみたら、唖然、愕然!向かって左側3分の1、前から半分ぐらいの人が全員、机に突っ伏して寝ているではありませんか! この寝かたは三重の比ではありません(参照:2005年2月27日地方講演)。というより、完全にあっけにとられて、それで講義の調子が崩れて、その後もハラホロヒレハレで、KZ先生には申し訳ありませんが、盛り上げようとか、大切なことを伝えようとかいう気力は飛び散り、ひたすら、スライドを先に送りながら、終了時刻の7時40分になるのを待っていたのでした。
 
それでも、途中、何回かは形勢立て直しを図るために、寝ている連中に情熱が届くように、マイクに口を近づけてみましたが、なにせ、寝ているのはひとりやふたりではありません。その上、さらに衝撃をうけたのは、上から三列目ぐらいのところで、両肘をついて顔の高さに支えた本を読んでいる人を発見したときでした。それでもそれでも、聴衆に失礼のないように、アイコンタクトなどできるものならしてみようと、教室全体を見回してみました。すると、正面の前から2~3列めから、10列めあたりには、こちらを真剣なまなざしで見つめ、熱心にメモを取る人たちがいました。よくみると、その人たちの中には、ご年配の男性や、30代の女性など、社会人と思われる方々がいらっしゃいました。また、教室の右側には、20-30代ぐらいの男性が多く、病院の薬剤師とか、大学の研究生のような雰囲気の方が、こちらの話のポイント、ポイントにうなずきながら、メモをとっていました。
 
講義や講演を聞く立場にしか立ったことがない人は、演者席から、如何に部屋が暗かろうが、部屋の隅々まで、よ~く見える、ということをご存じないらしいです。また、いきなり突っ伏して寝ている姿がどんなに見苦しいか、よく考えてみてほしいと思います。
 
講義終了後、冷静になって思い出したのですが、始る前にKZ先生から大学院の講義だが、聴講生や社会人の方も多く参加している、と聞いていたのでした。教室がやけに横に広く、演者席は、右側にあるため、自分の左側にあるスライドを見て教室に向かうと、どうしても左側の居眠り軍団がほぼ真正面に視界にはいり、右側の真剣集団は、大きく首を右に振らないと視野に入らない、というセッティングだったわけです。もし、左側に社会人の方や、真剣集団が座っていれば、穏やかな心で、普段通りの講演できたでしょうが、今回は、突然、プレーボールのサイレンが鳴りやまないうちに打たれたホームランみたいな状況に当惑の色を隠せず、講演力の自信が一気に崩れ去ったのでした。まだまだ、鍛錬がたりないなー、と深く反省し、話す力を読んで、講演力のネタを仕入れなおしたわけです。
 
それにしても、大学院の学生、というのは、出席さえすれば、派手に寝ていても、堂々と本を読んでいても、無遠慮におしゃべりしていても、許されるでしょうか。外部から、わざわざ来てくれた演者に失礼だとか、自分たちは、大学院生だぞ、という誇りだとかは無いのでしょうか。まるでお子ちゃまですね、あれでは。彼らは、大学院ということは、おこちゃまでも一応おとなですから、「講義中は寝てはいけません」などということを教授や、教務課が注意するような話ではありません。
 
 
以前、某私立医大の学生の講義に行ったとき、学生の講義は始めてだったので、経験のある先輩に心得を聞いてみたことがありました。その先輩は、「医学部の学生の講義なんて、話を聞け、と言う方が無理だよ。みんな好き勝手に携帯電話やったり、新聞読んだり、おしゃべりしたり、まるで、駅の待合室で、ちょっと、聞いて下さい、というようなもんだから、崇高な教育なんてことは考えない方いいよ。」と言われたことがありました。その忠告は、確かに正しいかも知れません。しかし、はじめからこの講義は寝てやろう、と思って出席だけとりにくる聴取がいるような、今回の講義のような場合でも、最初のつかみをどうにか工夫し、講演力の回復に努めたい、と、秋の夕暮れにひとり思うエビデンス侍でした。それではご唱和ください、いっか~んいっか~ん、いっか~ん。どうもありがとうございました。
 
 

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

“落ちた?講演力” への 7 件のフィードバック

  1. 勿体無ーい!ヾ(`◇’)ノ!!もっと知りた~い!もっと勉強した~い!と思っている患者さんを集めて講義をした方が、よほど有意義ですよぉ転移や再発を受け入れて、次はどうしたら良いか…難しい論文を一生懸命読んで、勉強している人が沢山いるのに…今後、各椅子に電流が流れるようにした方が良いかも^^;「お!10列目の13番、寝てるな…Pi!」って…ダメかしら…学生の時、いかに恵まれれていたか…後から分かるんでしょうね~勿体無ーーーい!

  2. 若手(?)薬剤師です。KRT薬科大学のKZ先生は私の想像が正しければ、少し知っています。今回のような大学院生を持っているとは少しがっかりしました。彼らも「大学院を出たんだ!」と胸を張ってどこかに就職するのかと思うと、またまたがっかりです・・・薬剤師は世間に認知されない理由のひとつに、こういったこともあるのでしょうか?

  3. いかにして寝かさない講義をするか、ということにつきるね。寝る方も悪いけど寝かすような講義をする方ももっと悪い。自分の学生時代をふりかえってもそうだったけど、面白い講義は寝ませんよ。最初から寝ているやつも起こすような講義をしないと。

  4. コメントというか、「いかにして寝かさない講義をするか、ということにつきるね。寝る方も悪いけど寝かすような講義をする方ももっと悪い。」という超あたりまえすぎる意見と「勿体無ーい!ヾ(`◇’)ノ!!」と言う超いいこぶりっこな意見に少し気持ち悪くなって、投稿いたします。問題の本質がよくわかりませんが、渡辺先生へ一言「講演会は選ばなけれなりません」。

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