医療経済の影


医療経済
医療経済というと、『高齢化社会をむかえ国民医療費を抑制しなくてはならない』という大義名分のもと、『開業医などの私立医療機関は儲けすぎ』という紋切り型の議論と、併せてコスト意識を先天的に持ち合わせていない医師が、経営効率など自分の管轄外とばかりにわがまま勤務を続ける公立病院の慢性的赤字が何となく許容される風潮、その狭間を縫うように、医師に薬剤選択権を与えず、スケールメリットを楯に薬品問屋を泣かせ薬価差益を絞り取るチェーン店形式の病院グループ、そして、そのようなやりかたで利潤を挙げている病院グループを自他ともに「勝ち組」と賞賛する風潮、などなど、どこが、なにが、だれが、正義なのか、全くわからない、混沌とした暗闇を歩いている様な、そんな不安を引き起こします。倒産さえさせなければよろしいという程度の、あっま~い 環境で、曲がりなりにも医院経営に携わってみて、私は国家公務員の時代には、全く見えなかった問題に目を向けることができるようになりました。最近、勉強したことの一端をご紹介し、一緒に考えてみたいと思います。
 
不可解な逆ざや現象
ハーセプチンの販売会社、日本ロッシュ(現・中外製薬、担当者は日高伸二さん)は、「トラスツヅマブ病理部会」を定期的に開催して、ハーセプチン治療の対象患者を選別するためのHER2タンパクの免疫染色(IHC)法や、遺伝子増幅を調べるFISH法の適正実施をまじめに検討しました。病理部会では、ハーセプチンの治療対象患者を選別するためのフローチャートを作成、これは国際的に受け入れられているものです。IHC法を最初に行う場合には、染色結果が「0」、「1+」は「陰性」、「2+」は「擬陽性」、「3+」は陽性 と判定されます。陰性患者はハーセプチンの治療対象とはなりません。陽性は、当然、治療の対象です。問題は、擬陽性である2+。2+の患者では、FISH法を行い陽性なら治療対象となります。一方、IHC法を行わないで、最初からFISH法で判定する場合は、陽性なら治療対象となります。IHC法で2+の場合には、とにかくFISH法を行わなければいけません。ここで、極めて深刻かつ、悩ましい問題が発生するのです。FISH法の保険診療点数は2000点、つまり、FISH法を行った場合、医療機関の収入は20000円、患者負担が6000円で14000円は国保なり、社保なりの支払い基金が負担します。ところが、FISH法を実施する検査会社では、検査料金として、A社は50000円、B社は40000円、C社は38000円と設定しています。その理由は、FISH法を行うためのキットなどの原価が約30000円だからです。実をいうと、A社もB社もC社も、実際のFISH法の検査は、H病理診断研究所に外注しています。医療機関は20000円の収入ですが、検査会社からは38000円から50000円を請求されることになり、「逆ざや」現象が発生しているのです。
 
 
逆ざや解消のためのさまざまな望ましくない工夫
この逆ざや現象を、ああそうですか、と、赤字覚悟で容認するおおらかな医療機関もあるでしょう。つまり、診療報酬としての収入は20000円、検査会社への支払いが38000円~50000円、2~3万円の赤字は許容しちゃうよ、っていうことです。しかし、医療機関の経営を考えた場合、唯々諾々と、赤字を容認するまぬけはいません。いろいろな工夫が、そこにはあるようです。
 
最も妥当な工夫としては、検査会社は20000円で検査を実施する代りに医療機関も利益なしという「両者痛み分け」方式。まゆをひそめる工夫その①としては、IHC法で2+なら、FISH法は行わないで、ハーセプチンを使ってしまう、という「現状容認型退行解決」方式。まゆをひそめる工夫その②としては、検査会社は16000円程度で検査を請負い、4000円の収益を医療機関にもたらす。その見返りとして、ちょめちょめを医療機関に御願いする、このちょめちょめ、は、いろいろあるのでしょうが、このような不透明な部分が新たな問題を引き起こしかねません。そして、「混合診療」となりかねない工夫として、医療機関は、20000円の保険診療収入とは別に、患者から検査費として20000円を徴収。併せて40000円のうち、30000円~36000円程度を検査会社に支払い、残りを医療機関の収益とする、というやり方。これは、どう考えても犯罪行為ですが、このやり方がまかり通っている状況が実在するのです。
 
これでは姉歯問題と同じです。そして、このようなゆがんだ医療経済構造を生み出しているのは、不適切な保険点数の設定にあると私は思います。FISH法は原価が高いのだから、それなりの点数を付けなくてはいけないのです。または、国民医療費を押さえるためならば、たとえば、1件あたり20000円を超える検査の場合には、差額を患者から徴集する混合診療を行ってもよい、というのならそれもいいでしょう。しかし、、いくら大義名分があったとしても、本音と建て前を使い分ける、このような行政の姿勢が諸悪の根源であると感じざるをえないのは、私だけでしょうか。
さあ、ご唱和ください、久しぶりに、さん、はいっ!
いっか~ん いっか~ん いっか~ん いっか~ん いっか~ん いっか~ん いっか~ん

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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