電子カルテ、オーダリングシステム、診療支援システム、医事会計システム、など、病院や診療所で使用されるコンピュータを使った情報処理、管理システムは、いろいろな名称で呼ばれています。もちろん、これらは、少しづつ機能が違います。もともと、病院、診療所の会計を処理するために、レセプトコンピューター、いわゆるレセコンというのが1980年代にいろいろなメーカーのものが登場し普及しました。レセコンとは、医事会計コンピューターシステムです。
レセプトというのは、月毎に、その月に行われた、診察や手術や検査や薬剤処方や点滴・注射などの保険点数を集計して、医療機関から社会保険、国民健康保険の支払い基金に請求する明細書のことです。手術したのにその分の請求がもれていたり、処方した薬剤の根拠となる診断名がついていなかったり、と言うことがないように、実施した医療行為に対して過不足無く請求するためには、レセコンが役立ちます。
オーダリングシステムというのは、薬剤処方とか、レントゲン検査の依頼・指示とか、採血検査の指示とか、医師の指示(オーダー)をコンピューターで行うものです。これがあると、処方した内容が、薬剤部門に伝わって薬剤が処方され、医事会計部門に伝わって、会計処理につながります。つまり、医師の処方、が発生したら、それから、すべての処理がもれなく、実施されるわけです。そういう意味で、発生源入力、ということですから、医師の処方内容をレセコンに打ち直す、という二度手間が省け、しかも間違いがなくなる、というものです。オーダリングシステムは便利ですが、オーダーしたことをカルテに記載しなくてはいけないので、その点が二度手間になります。国立がんセンターでもそうでしたが、オーダリングを導入すると、必ず、医師から、仕事が増える、ただでさえ忙しい外来がますます忙しくなる、などの不満がでます。とくに、コンピューターになじんでいない団塊の世代以上の皆さんは、マウスを使うには机が狭すぎる、など、訳のわからないことを言います。確かに、二度手間になるかも知れませんが、考えようによっては、JRの指さし確認のように、もれがないよう、二重チェックができるという事も言えます。
そして、この「二度手間のカルテ記載の部分」もコンピューター化したのが電子カルテです。電子カルテは1990年代に先進的な病院では導入されました。私も、いくつかの病院の電子カルテを視察してまわりましたが、いずれも、「単なる紙芝居」でした。カルテ、すなわち診療録記載の理念が全くわかっていないのではないか、と思われるような稚拙なシステムが、使われていた病院もありました。電子カルテのことを考える際には、やはり、カルテの記載とはなんぞや、ということをよく考えないといけません。日野原重明先生が1970年代の後半にPOS(problem oriented system)を日本に導入されました。POSはいまでもそのまま、使えるカルテの記載方式ですが、これは、たんなる「書式」ではありません。患者さんの主観的な訴え、医師が診た、あるいは検査した客観的な所見、にもとづいて、医師がどのような診断をして、どのような対応が必要と考えたのか、そして、処方するなり、追加検査をするなり、様子をみるなり、どのようなアクションプランをたてたのか、という一連の思考プロセスをカルテに記載する、というものです。紙芝居カルテを作っていた鴨川の病院を先日、何年かぶりに訪れたのですが、病院全体が紙芝居になっておりました。