昨日からサンアントニオ乳癌シンポジウムに参加している。昨年、一昨年と2年続けて参加できなかったが今年は鈴木究子先生が留守中の診療をきちんとやってくれるのでSt.Gallen, ASCOに次いで3回目の長期出張が可能となって、しっかりと勉強できるのでうれしい。サンアントニオ乳癌シンポジウムも30回というからちょうど私の医師としてのキャリアと重なる。
今年の発表は、これと言って目新しいものはないようだけど、薬物療法の方向性ははっきりと見えてきた。つまり、本当に治療が必要な患者に、必要な治療をきちんとやりましょう、という方向である。そのような視点から今回の発表を見てみると・・・・
① 大量化学療法は標準治療と比べて優れているということはない、Dan Berryによりメタアナリシスの結果として発表された。大量化学療法が検討された時代から、ハーセプチンやアロマターゼ阻害剤など、すぐれた薬剤が多数、臨床応用され、有用性が検証されている。大量化学療法の時代は、はいっ、終~了~。
② INT0100試験の対象となった症例について、21遺伝子を評価する再発スコアを用いて、リスク別のCAF追加効果を検討した。するとCAF追加効果高リスク症例では明らかに認められるが、低リスク症例の場合は、効果はみとめられず、タモキシフェンだけでよい、という結果が、Cathy albainによって発表された。21遺伝子を使用した再発リスク評価とは、「Oncotype DX」という商品名の検査キットとして市販されている。日本でも使用は可能だ。今回の見当は、Oncotype DXを応用した検討としては初めてのものだが、ホルモン受容体の発現状況やHER2過剰発現状況のより、アンソラサイクリンが効くか、パクリタキセルが効くかというような検討は、かなり行われている。しかし、これらの検討には常に、レトロの解析であることの批判が付きまとう。確かにエビデンスレベルは低いが、多数の検討で同様の結果がえられていることから、そろそろ、臨床的方針として、ER陽性、PR陽性、HER2陰性(正常)の患者では、ケモをやらない、というような、あるいは、ACだけ、とかCMFとか、場合によっては、UFTのみというような治療の考えてもいいのではないだろうか。
③ お声のいいSteven JonesによるAC対TCの比較の結果が報告された。この試験の結果が発表されるのは2005年についで2回目だが、今回は生存期間もTCで延びているという結果である。確かに、AC4サイクルに比べて、TC4サイクルのほうが生存期間が延びているが、アンソラサイクリン→タキサンで、合計8サイクルとか、CEF100で6サイクルというのが標準になりつつあるようなポピュレーションでTC4サイクルはいかにも中途半端であろう。また、発表されたむくみとか、好中球減少性発熱など、TCの副作用の頻度が低すぎるように感じる。いずれにしてもTC4サイクルは標準にはなりえないようだ。
④ ATACトライアル100か月の観察でも生存期間では差はなしということであった。TAM5年とアナストロゾール5年の比較では、無病生存期間はアナストロゾールが優れているが、生存期間では差がないという結果は、今までの発表と変わらない。しかし、まるで徳川埋蔵金の特番のように、差が出る、差が出る、と言い続け、今度もだめか、と肩透かしを食らわされるようなものだ。発表では、ホルモン療法終了後の再発抑制効果が持続し、それは、タモキシフェンよりもアナストロゾールで大きいという報告もあった。しかし、最近では、術後のホルモン療法は、5年よりも10年、ひょっとするとそれ以上の期間必要だ、というデータもある。そうすると、アロマターゼ阻害剤の意義について、もう一度、考え直す必要があるかもしれない。
⑤ ポスターで穂積先生が、NSASBC03の副作用の経時的変化を発表した。NSASBC03は、タモキシフェン内服から、アナストロゾールに切り替えるか、そのままタモキシフェンを継続するか、という、ABCSG trial 8/ARNO 95 trialに類似した試験である。この発表のポイントは、GOT、GPTなどの肝機能障害、関節痛、ホットフラッシュなどの副作用を開始後、12ヵ月にわたり、推移をみたものである。通常、副作用は、全経過中で、出たか出ないか、出たときゃどの程度か、ということしか報告されないので、このように、続けていってどのように変化するか、という情報は意外とすくないのである。データセンターの緻密な集計作業のおかげであろう。
⑥ 二日目の午前中は、特に印象に残る発表はなかった。トランスレーショナルリサーチということで数題の発表があったが、どれもこれも、遺伝子発現とか、新しいバイオマーカーとか、ER陽性、PgR陰性のさらなる検討など、であったけれど、結局、現在、ルーチンに使われている臨床検査(ER、PgR、HER2など)で得られない情報の可能性がある、という感じではなかった。相当な研究費がつかわれているなぁ~、無駄やなぁ~、という発表もありましたね。そこで、ふと思い出したことがあります。私が米国留学から帰国したときに、慶応大学の上田先生が、医局の朝の勉強会で話してほしい、と言われ、米国でやった研究について、話したことがありました。最後に、阿部令彦教授が、「しかし、アメリカという国は、ずいぶんと無駄なことにお金をつかうんですねぇ~、えぇ?」と言われたことがありました。まあ、いいか。
⑦ 二日目の午前中、最も印象に残ったのは、William McGuire Memorial Awardを受けたMich Dowsettの講演。乳がんの内分泌療法や、内分泌学的生物学をづっと続けてきた彼の話をきき、あらためて歴史の積み重ねを確認することができた。また、ER陽性、PgR陰性問題の経緯やその結末も真摯な語り口とわかりやすく冷静な説明でよく理解できた。また、PgRの意義につついて、自らのデータを示しながら、 Dr. Petoの見解をやんわりと否定した。乳癌の内分泌学のエキスが集約された素晴らしい講演であったと思う。
⑧ Late Breaking Presentationとして、ATLAS Trialが、Dr.Richard Petoにより発表された。ATLASとは、Adjuvant Tamoxifen Long and Short。つまり、タモキシフェン5年と10年を11500人を対象として、ランダム化比較している研究。抄録でも発表でも5年より10年のほうが、無病生存で優れている、ということだが、データの提示の仕方が分かりにくく、結論がどうだ、というのが、ちょっとわかりにくい。大橋先生がスライドを持っているというので、2月のCSPOR年会の時に、解説付きで分かりやすく発表していただきたいと思います。大橋先生、よろしくお願いします。増田さん、調整をお願いします。
⑨ 学会の収穫は、いろいろな人にあうことができる、ということは以前にも書いた。明日は、ダニエル・ヘイズとクレイグ・ヘンダーソン、ふたりの大物にインタビューすることになった。楽しみだなぁ~。