転移性乳がん治療 サンアントニオの寒空の下


二日目と三日目の昼には、サンアントニオの定番プログラム、CASE DISCUSSIONがあります。二日目は原発乳がん、三日目は再発乳がんの治療を討論します。壇上には、内科医3-4名、外科医1-2名、放射線科医1名に加えて患者代表があがります。司会は、3年前までは、Kent Osborneがやっていましたが、今年は、Jenny Chang(ジェニーちゃん)がやっていました。会場のマイクの前には、ずらり、列ができます。そして、順番に、自分が担当していて、治療に苦慮している症例を提示します。これは、実症例であるので面白いのであって、日本の乳癌学会地方会でやったようないいかげんな作り話ではありません。高齢者とか、妊娠中とか、アレルギーで薬が使えないとか、実に、さまざまな症例がここでは提示されます。壇上の専門家は、ホルトバジイとか、ピッカートとか、スレッジとか、論文では名前をよく見る人ばかり。超一流の研究者は、超一流の臨床家でなけりゃきけない、という原則どおり、彼らの、回答は実にすばらしいと感じていました、3年前まではね。ところが今年は、どうも感じがちがうのです。二日目の原発乳がんに関しては、数多くのエビデンスがありますし、また、ガイドランやコンセンサスなどが公表されていることもあり、だいたい、ほぼ全員が納得するような回答が示されます。ところが、転移性乳がんを扱った今日の場合、「ランダマイズドエビデンスがないので、答えは、ありません。患者と十分に相談して最良の方法を決めるのがよいでしょう」というような対応が実に多く不満を感じました。というよりは、檀上の専門家の力量の低下を感じた、というほうが正しいでしょう。「ER陽性、PgR陰性、HER2陰性、温存手術後半年で、温存乳房内に再発し、傍胸骨リンパ節と、肝臓にも2個の転移がでた。」という症例に対して、檀上の女外科医が、「私なら、デフィニティブサージェリーで治癒を目指すために、原発切除、傍胸骨リンパ節切除、関節所を行う。」といったのですが、ホルトバジもスレッジもワイナーも、そりゃだめだ、とは言わないで黙っている。司会者にうながさされると、ホルトバジがAIの内服も選択肢のひとつ、と。転移巣の手術など、やるわけないだろうし、原発についても、AIで小さくなれば、それでよい、というのが正解ではなかろうか。なんでこんなになってしまったのか? と考えてみました。転移性乳がんは結局、何をしても治らない、もし、患者が手術をしてほしいといって、それは意味がないといったところで、AIが効いて、ケモが効いて、QOLは保っていっても治癒することはないわけです。それは現実です。それで、もし、あの時、手術しなかったからこうなったんだ、といわれることのないように、なんでもありありの対応をする、ということかもしれません。ランダマイズドエビデンスがない、というのは確かにそのとおりです。ASCOでも、1990年代前半までは、転移性乳がんを対象とした治療概念を検証するようなランダム化比較試験が結構発表された。たとえば、TAMとACの同時併用か、TAMだけで開始するか、ACから開始するか、という3群を比較したオーストラリア・ニュージーランドグループの試験は有名で、こららが元になって、今の治療体系が成り立っているわけです。それが、199年代後半からは、対象は、転移性乳がんだけど、検証するのは、薬剤のよしあしであって、治療概念とか、治療方針の良し悪しを検証するような試験はすっかりと影をひそめてしまいました。確かに、ハーセプチン、タキサン、アロマターゼ阻害剤などの薬剤が、つぎからつぎへ、比較試験で評価され、治療薬としてのスペックが明らかになったということは歓迎すべきです。しかし、この間に、大切なものを忘れてしまったように感じます。つまり、「このような状況の患者には、どのような治療をするのがよいのか」といような、患者の病態に着目して、それをどうにかしようという取り組みがおろそかになっているように思います。いってみれば、薬に気を取られ、患者をみなみということに通じるのではないでしょうか。そのことを、今日、インタビューした、クレイグ・ヘンダーソンに話したら、「100%同意見だ、最近は、遠隔転移があっても原発巣を手術したほうがいい、というムーブメントがある。これは、エビデンスレベルの低い論文が一本出たのをきっかけにそうなった。こういうことは、医学以外の領域でもよくあることだ。それで、外科医が中心になって、遠隔転移のある患者に、原発巣をとる、対、とらない、の大規模比較試験をやるというから、それはいいことだ、どんどんおやりなさい、と言っておいたが、それと、今、臨床試験以外で、原発巣をとる、というのとは、まったく違う話だ。」と言っていました。これには私も同感です。ヘンダーソンや、ラリーノートン、マークリップマンなどの知恵袋が引退した現在、その後継者たちは、薬をみて病気、患者をみなみということにならないといいなあと思います。
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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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