ASCOの過ごし方


今年も5月31日(土曜日)からASCOのアニュアルミーティング(年次総会)が始まった。何年か続いたシカゴでの開催だが、来年からはオーランドで開催される。シカゴは日本から直行便で来ることができるがオーランドとなるとどこかで乗り継ぎをしなくてはいけないので時間のかかるし手間もかかる。特に9.11テロ以降、機内への持ち込みも、預ける荷物のチェックも厳しくなって乗り継ぎのために2時間ぐらい、見ておかないといけないようだ。シカゴでは、市の南、ミシガン湖に面したところにあるマコーミックプレースが会場である。はじからはじまで歩いて移動するだけで30分ぐらいかかるほどの巨大な会場だ。おそらく全米一ではないだろうか。ASCO GI, ASCO Breast など、領域ごとに別開催にはなっているものの、やはり年次総会の参加者は多く、巨大な会場の中心部は朝夕の満員電車なみの混雑ぶりだ。
さて、今年も昨年以上に「ミブマブ」の発表が多い。、プレナリーセッションでは、4演題のうち2演題は「マブ」。転移性大腸癌に対するセタキシマブ(商品名「アービタックス」)の効果はKRAS変異のない症例で認められるというCRYSTALトライアル、進行非小細胞癌にたいする同じくセタキシマブの効果を認めたFLEXトライアル。この試験では、サブセット解析ではアジア人では効果がほとんどなく、白人で効果があった、というものだがEGFR変異の頻度や非喫煙者の割合の違いなど、その他の因子との交絡も考えられるようだ。その他、2演題は乳癌のゾメタ、セミノーマのカルボプラチンの演題だ。
ABCSG(オーストリア乳癌研究グループ)のプレナリーセッションでの発表は、「?」が多くつく。この試験は閉経前乳癌症例を対象に、ゴセレリン(ゾラデックス)を毎月注射(3年間)して卵巣機能を抑制したうえで、①タモキシフェン内服群、②アナストロゾール内服群、③タモキシフェン内服にゾメタを6カ月毎に注射を加える群、④アナストロゾール内服にゾメタを6カ月毎に注射を加える群、の4群を比較した試験。よくみると、タモキシフェン vs. アナストロゾールという比較ファクターと、ゾメタあり vs.ゾメタなしという比較ファクターの二つのファクターを検討する、2x2(ツウーバイツウーファクトリアルデザイン)で、症例数の節約を図っている。それででた結果というのが、① タモキシフェンとアナストロゾールは差がない(アストラゼネカ真っ青気持ち悪い)、②ゾメタを加えると再発率が三分の二に抑制され、、死亡率も抑制される傾向にあった(ノバルティスにこにこスマイル)というもの。 
 
研修医山田君(突然登場): でもちょっと待ってください。、アナストロゾールとタモキシフェンの比較では、ATACトライアルでも、ITAトライアルでも、ABCSG8/ARNO95トライアルでも、相原先生がやったNSASBC03トライアルでも、いずれもアナストロゾールの方が、再発抑制効果が優れていたという結果でしたよね。
 
渡辺先生: おお、君も来ていたのか。そういえば、ASCOに参加するって、言っていたね。
 
山田君: 乗るはずの飛行機が故障で1日遅れてしまってんです。ですから、Perez先生とLake先生をおよびした勉強会も、ばたばたしていて参加できなかったんです。
 
渡辺先生:そうか、大変だったんだね。それで、話を戻すとね、確かにそうだけど、ATACなどは、すべて閉経後症例を対象とした試験だよね。でも、このABCSG12では、閉経前症例にゴセレリンを注射して見かけ上、閉経後のようにして、そこで、タモキシフェンとアナストロゾールのどちらが、再発抑制効果が優れているか、を検討しているんだ。だから、ATACなどは、完全に閉経した症例を対象としている。本当の閉経と、ゴセレリンで卵巣機能が抑制された状態とは、内分泌的には、まったく異なるので、そのあたりの違いかもしれない。なので、アストラゼネカちゃんも機嫌をなおしてね(恥ずかしいうん、わかった)。
 
山田君: 先生、アストラゼネカの昌本さんが、口を尖がらせていますよ、大丈夫ですか。
 
渡辺先生: ああ、そうね、いつもそうだから気にしなくていいよ。
 
山田君: それでね、先生、次にゾメタはどうなんですか? ゾメタはそもそも、骨転移のある患者で骨転移の進行を遅らせて、骨折、疼痛、高カルシウム血症などの「骨関連合併症を防ぐ」という目的や、骨粗鬆症の予防、治療で使われる薬剤であって、なぜ、再発率の低下につながるのでしょうか。
 
渡辺先生: そこなんだよね。そこがちょっと不思議なところだけど、ビスフォスフォネートの第一世代の薬剤、クロドロネートで、骨転移の予防になる、という報告もあるんだよ。 ビスフォスフォネートに関するASCOのガイドラインにも出てるから、一度読んでおくといいよ。
 
山田君:はい、わかりました。つまり、骨転移を予防するということですね。
 
渡辺先生: ふつうはそう思うよね。でも、骨転移だけでなくて、局所再発や臓器転移も抑制されるんだそうだ。なぜ、そうなのかということはわかっていないようだけど。プレナリーセッションでは、各演題毎に、discussionというのがあるのだけど、discussionを担当したPiccart先生は、種と畑、ということで説明していた。つまり、癌細胞が種だとすれば、転移先は畑ということで、畑が
それなりの条件が整わないと種も育たないということだ。しかし、この論調は、どうも骨転移のことを想定しているように感じたけど。ビスフォスフォネートは、癌細胞に対して直接作用もあるのではないかという意見もあるしね。
 
山田君:じゃあ、術後の患者さんには、ゾメタを点滴すればいいってことですか?
 
渡辺先生: 今の時点では、まだ、確定というところまでは行っていないと思うよ。ポジティブデータは、今回の試験と、Dr. Pawlesが2002年にJCOに発表したクロドロネートの論文で、あと、もう一つは、クロドロネートは、遠隔転移を抑制しない、という報告がある。だから、まだ、確定というわけではないと思う。ノバルティスくん、落ち着きなさい(天才 池井戸です。わっかりました)。でも、半年に1回の点滴で再発率が抑えられるのなら、こんなに楽なことはないね。骨は、たんなる硬い、白い、こんこんという塊ではなくて、さまざまな細胞や無機質は有機物や活性物質が織りなすとても複雑な臓器なんだよね。
 
山田君:でも、骨の話は、分かりにくいですよね。破骨細胞と造骨細胞のバランスで、骨粗鬆症になるとか、骨転移したがん細胞が、破骨細胞を手下のように操って骨を溶かすとか、イメージがわかないですね。
 
渡辺先生:そうかもしれないけど、癌治療、とりわけ乳癌治療は骨と切っても切れない関係があるし、これから、RANKL阻害剤といったあたらしい骨転移治療薬も出てくるから、一度、きちんと勉強しておくのといいね。こんどの、臨床EBM研究会はASCOの発表を検証する、というテーマだけど、ABCSG12を取り上げる予定にしているんだ。だから、臨床EBM研究会に参加すれば勉強できると思うよ。そのほかにも、ASCOでの発表をEBM的にどう解釈するか、ということで、内容充実しているよ、中村清吾先生も来るしね。
 
山田君: ええ、参加する予定にしています。
 
渡辺先生:もう、申し込んだの?
 
山田君:いや、まだです。
 
渡辺先生:早くしないと、締め切っちゃうよ。ホームページをみて、早く応募したらいいよ。
 
山田君:では、いまからやります。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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