俳優の峰岸某さんが肺癌で亡くなったそうで、その最初の症状が「腰痛」で、腰痛の陰に癌が潜んでいる、ということを取り上げたいので取材をお願いできませんか、とピンポンという番組から電話がありました。以前、コメディアンのやまだくにこさんが乳がんになったときにもコメントを求められましたが、そのようなくだらない話は聖路加で聞いてくれ、と断りました。今回も同意できない切り口での取材でしたので断ったわけですが、「腰痛でも肺がんの可能性があるから皆さん、注意しましょう、恐ろしいですね」なんていうことになったら、都内のブランド病院の外来は大パニックになるでしょう。ただでさえキャパこえて、診療レベルが低下しているのにこれ以上、劣悪な外来対応になったら患者にも医師にも申し訳ができません。
そもそも日本人の8割は、生涯で一度は腰痛を経験するといわれています。確かに、乳癌、肺癌、前立腺癌は、骨転移御三家といわれ、経過中に骨転移を起こすことはよくあります。また、峰岸某氏のように骨転移(腰痛)が初発症状でよく調べてみたら肺にがんがあった、ということも、それほど頻度は多くはないですが、時々経験します。吉本流にいえば、そういう症例を持っている、ということです。しかし、腰痛の原因で、がんの転移の頻度は、0.7%です。1000人の腰痛患者のうち、7人ががんの転移によるということです。この数字の中には、多発性骨髄腫も含まれており、ましてや初発症状が腰痛などということは、かなりまれなわけですから、ピンポンでとりあげるネタとしては、あまりにキワモノと言わざるをえません。そんなことより、煙草をやめれば肺がんはへる、COPDも心筋梗塞も減る、という話題が本当は必要なのですが、それでは、番組的にはつまらない、ということになる。つまり、バラエティーは、どうでもいいような、あるいは、世の中を混乱させるような、キワモノ的な話題しかとりあげないのでおもしろいかもしれないけれどくだらないというわけです。でもそれが日本人の民度なのですから仕方ありません。民度向上のためには教育しかありませんが、学校の教師の質の低下も歯止めがかからない現状では日本は衰退の一途をたどらざるを得ないと思います。おしまい。