がん臨床力に関する考察


サンアントニオ乳がんシンポジウムの二日間が終了し明日(土曜日)、明後日(日曜日)も、まだまだ盛りだくさんの内容である。今日の夜はステファン・ジョーンズを迎えてファイザーオンコロジースポンサードミートザスペシャリストフォージャパニーズデリゲートがあった。TEAMトライアルをみんなで徹底的に討議しよう、みたいな活発な会になり、ホズミン(栃木)も存分に活躍された。また、一見、バリトンで押し出しの強そうなステファン・ジョーンズもとても好意的に対応してくれ、若手も古手も結構、満足できたんではないだろうか。今日の昼には、サンアントニオ恒例の「ケースディスカッション」があった。以前にもブログしたような記憶があるけれど、サンアントニオと言えばケースディスカッションと言うぐらい、こんなに充実したセッションはないんじゃあないかと思う。今年が31回だが、いつの頃からやっているのかわかならいけれど私が参加し始めた10数年前からは二日目と三日目の昼に開催されている。今年の状況をまず、ご説明しましょう。
壇上には、右からジム・イングル(メイヨークリニック腫瘍内科)、モニカ・モロウ(メモリアルスローンケタリングがんセンター外科、旦那はタモキシフェンの生みの親、クレイグ・ジョルダン)、ガブリエル・ホルトバジイ(MDアンダーソンがんセンター腫瘍内科)、ジェイ・ハリス(ハーバード大学放射線科)、司会のじぇにーちゃん(ベイラー大学腫瘍内科)、アジア系の放射線診断医(氏名、所属不明)、患者団体のおばさん、そして、イアン・スミス(英国ロイヤルマーズデン病院腫瘍内科)がパネリストとして並ぶ。司会は数年前まで、ケント・オズボーンがつとめていたが、数年間から、お弟子のじぇにーちゃんになった。フロアから、ぶっつけ本番で症例が呈示される。実症例なので、確かに難しいね、という症例ばかりが呈示される。おそらく、この日のために質問しよう、と全国から参加してくるのだろう。私も、3-4年前に、九州大学の徳永えり子先生から相談された症例をここで提示してみた。提示された症例について、壇上のパネリストが、どのような治療が適していると考えるかを理路整然と語る。ここに、真剣勝負に立ち向かう臨床力が発揮されるのである。今年の症例を一挙公開。
(1)症例1 55才 閉経後女性 3mmと2mmの浸潤癌あり乳切行いグレード2,センチネルリンパ節生検では、サイトケラチン染色陽性、全身治療をどうするか、腋窩についてはどうするか?
(2)35才閉経前女性 8cm大の乳癌で、MRIで腋窩リンパ節にも転移あり。ER陰性、PgR陰性、HER2過剰発現あり。AC→ドセタキセル+ハーセプチンを行い、完全に触知できないぐらいに消失、MRIでも残存腫瘍の痕跡なし。局所治療をどうするか?
(3)46才閉経前 乳房温存、放射線照射実施、ER陰性、PgR陰性、HER2箇条発現あり。術後TCH(タキソテール、カルボプラチン、ハーセプチン実施した。ハーセプチン9花月のところで、心拍出率低下(63%→46%)、ハーセプチンを休止したところ心拍出率は55%に改善した。ハーセプチンを再会するべきか?
(4)25才閉経前 妊娠26週間で5cmの乳癌が診断された。ER陰性、PgR陰性、HER2陰性(トリプルネガティブ)。ケモをどうするか。術前でやるか、術後でやるか。若年発祥なのでBRCA1/2などの乳癌遺伝子を調べる必要はあるか?
(5)45才、T2N0M0 stageIIA乳癌に対して乳房温存術→CEF6サイクル→タモキシフェンを実施。タモキシフェン開始後3年で、心嚢水出現し細胞診でがん細胞陽性。骨転移もあり。どうするか。ホルモン剤でよいか、抗がん剤を勧めるほうがいいか?
(6)42才、ER弱陽性、PgR陰性、HER2陰性、術前化学療法としてAC4サイクル後、乳切。腋窩廓清は実勢せず。術後に12週間タキソール週1回投与終了。その後、3ヶ月で腋窩再発リンパ節転移出現。ケモをどうするか、ER・PgRは、どのように評価すればよいのか?
(7)44才 左T1N1bM0 ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。3か月タモキシフェン内服したが、既往のうつ病臥悪化した。どのような治療を選択するか?
(8)55才 マンモグラフィーで石灰化、マンモトームでDCIS(非浸潤癌)が大部分だが、2-3カ所に1-2mmの微小浸潤部位あり、そこを調べたらER陰性、PgR陰性、HER2強陽性であった。センチネルリンパ節生検はしていない。これから先の治療をどうするか?
(9)23才のナース(茄子)、乳頭直下に2.5cmの腫瘤があり、吸引細胞診で「がんなし」、生検をしたところ繊維腺腫。28才の姉が乳癌に罹患し、乳切→術後ケモセラをしていることもあり、家族性乳癌を極度に心配している。どうしたらよいか?
(10)76才 2年前T1cN0M0G3、ER陰性、PgR陰性、HER2強陽性で、腫瘤摘出術、放射線、TC4サイクル後、ハーセプチン1年実施。右肺上葉の1cmの腫瘤出現したので、切除したところ、乳癌の転移で、性格は原発巣とおなじでER陰性、PgR陰性、HER2強陽性であった。その後の対応をどうするか?
 
どのような答えがでたか、どんな討議がなされたか、については、来年のCSPORの年会でご紹介する。壇上のパネリストは、自分の考えを理路整然と説明した。エビデンスがある場合には、的確に引用する。エビデンスが乏しい問題には、現状で最善の方策はこれだと思う、その理由はこれこれそれそれだから、と。日本で同じようなことをすると、たぶん、「とても難しい問題ですね、患者とよく相談して決めなくてはいけないと思います。」というようなその場しのぎのご意見が出るでしょうし、そんなことを言いそうなのは誰だか、だいたいわかりますね。わからないようにイニシャルで語ってもなぜか見抜かれてしまうので書きません。
著名な研究者は著名な臨床家であり質の高い臨床を実践するためには科学的な理論構築ができないといけないということです。そこで、来年のCSPORの年会では、2名の論客による、ディベート大会を計画しました。出演は、あるが先生とむかい先生ということで調整が進んでいます。また、来年の年会では、NSASBC02、03試験について「計画→実行→解析→発表」のプロセスを振り返って検証します。多数の皆さんのご参加をお待ちしています。
 

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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