Late Breaking Abstract(最新演題)は通常の締め切りの後に受け付けられた演題で、締め切りの時点ではまだ、データが固まっていないけど、学会前までに予定されている解析結果がえられるということで、特別に口頭発表が認められる。ASCOでもサンアントニオでも5-6年前から増えてきた。たしかに、まだかまだかと注目されている試験の解析がぎりぎりに間に合ってインパクトのある結果が発表された、ということはしばしばあった。今回、NSABP B30(抄録番号75)も抄録にはOS,DFSに関する結果は、「当日発表します」とかいてあるだけだ。これが、LBA扱いなのか、予告演題としてアクセプトされたのかはわからないが、NSABP B30も確かに注目されていた試験だし、米国国内では、専門家の間ではどんなような結果か、ということは何となく知れ渡っていたようだ。もし、NSABPが無名の新興グループならば、あんな抄録なら当然rejectだろうけど、そこは歴史と伝統と実績のある試験グループなので許されるのだろうか。しかし、NSABPだって数年前、データ捏造事件があり、カナダの病院が永久追放になった。ASCOの抄録投稿規定にも、LBAの扱いにはわりときちんとした規定が設けられている。いうまでもなく、LBAは、一般臨床を変容させる可能性のある程のインパクトのある結果を遅滞なく公表することを目的としている。抄録番号46の、EGTF30008もLBAとして、金曜日の午後に発表された。
EGF30008試験
は、レトロゾール単独 vs.レトロゾール+ラパチニブのランダム化比較試験である。症例選択条件は、ホルモン受容体陽性(ER陽性またはPgR陽性)、閉経後、進行乳癌(stage IIIb, IIIc, IV)あるいは再発乳癌、HER2は陽性でも陰性でもOK,術後、術前治療はよいが再発後には治療が行われていない症例。標準治療群としては、レトロゾール(+ラパチニブのプラセボ6錠)を内服、試験治療群ではレトロゾール+ラパチニブ6錠を一日量として内服、PDになるか、副作用で続けられなくなるまで治療を継続して、PFS(progression free survival)を主なエンドポイントとして検討した。対象は1286症例、このうち、HER2タンパク剰発現あるいはHER2遺伝子増幅のある症例は219例(17%)。この試験の目的は、HER2陽性、ホルモン受容体陽性乳癌では、HER2を介する刺激伝達系と女性ホルモン刺激に続く刺激伝達系との間に、相互刺激(クロストーク)がある、というトランスレーショナル研究結果があるので、それを検証する、というようなことらしいが、それだったら、ラパチニブ単独群を設置しておかないと答えはでない。また、HER2陰性症例も対象としている理由がよくわからない。
結果は、HER2陽性症例では、PFSは併用群で有意に良好(MPFST;3か月対8.6か月:P=0.019)であった。COX比例ハザードモデルを用いた多変量解析では HER2陽性症例(219症例)におけるのPFSの調整ハザード比は0.65(95%信頼区間:0.47-0.89, P=0.008)であった。一方、 HER2陰性症例(952症例)では、PFSの調整ハザード比0.77(95%信頼区間:0.64-0.94, P=0.010)で、HER2陰性症例でも、ラパチニブの追加効果が認められている。これはいったどういうことだ!?
考えられる理由、可能性の高い順に、
① HER2の判定が偽陰性、つまり陰性という判定だけど本当は陽性という可能性。
② ハーセプチンの効果予測因子として開発されデータが積み重ねられてきた現在の検査がラパチニブの効果予測因子としては、不十分、不適切である、という可能性。
③ ラパチニブは、HER2のほか、HER1(EGFR)にも効果があり、その抑制とホルモン作用との間に相互刺激が起きているという可能性。
など。
アメリカやヨーロッパではすでにラパチニブが使用されているので、ホルモン受容体陽性かつHER2陽性乳癌では、レトロゾールとラパチニブの併用が一気に普及するだろう。現在、NCCNのガイドラインでは、このような症例では、まず、ホルモン、効かなくなったらハーセプチン、それからラパチニブ、ということになっているが、これも改訂されるだろう。日本はどうか、というと、相変わらず医薬品機構での承認作業が大幅に遅れており、苦しい思いをしている国民が多い。このギャップはとても大きく、行政後進国で暮らすことはとてもつらいものだ、とつくづく感じる帰国の夜なり。