「お金と医療文化」in NEJM


 
浜松オンコロジーセンターを立ちあげたときに、経営者として読んで役に立った本は「さおだけ屋はなぜ潰れないか」である。その中で「いずるを制しはいるを計る」ことが重要だ、ということを学んだ。確かに今でこそエアコンのスイッチはこまめに切るし部屋の電気も消すようになった。山王メディカルプラザに勤めていたころは銭ゲバに対する腹いせもあり夏には夜中もクーラーをキンキンにかけていたことを考えると180度の更生である。少し前にIWT大学の医局を見せてもらった時のこと。日曜日の朝だったが研究室、医局、実験室など、すべての部屋には電気がこうこうと灯りテレビもガンガンとつけっぱなし。古き良き時代を感じた。
 
さて今週号のNew England Journal of Medicineに「Money and the changing culture of Mediciene」という論説記事が載っていた。訳せば表題のとおり。医療の分野にもビジネスの考え方が強烈に入り込んできており、医師の医療行為、行動もすべて、市場原理、経済原則の物差しで判断されるようになっているのは、日本でもアメリカでも同じ。しかし、医師が医療を行う際、やりがいとか、達成感とか、充足感とかは、必ずしも「収入」とか「給料」とかではなく、社会から期待される医師としての専門性が発揮できたとき、とか、日頃の勉強や鍛練の成果が診断や治療に役立ったときにえられるのである。それが、この不況で医師の働きをすべて、経営効率で評価される風潮が強くなっている。浅薄な若者は「最小限の努力で最大限の収益をえよう」ということを考える。そうすると見かけ上9時5時シフトで勤務時間が限られていて楽そうに見える麻酔科や放射線科や眼科なんかを志向するものが増えて、がん医療や小児科、産科に進む若者がへってしまうのだ。我々はよく患者の治療方針や画像診断や病理診断などについて同僚や先輩に非公式に助言を求めることがある。こういうのも専門家としての責任感や向上心から自発的におこなっているのだが、ここにビジネスを持ち込んだらどうなる?「先生、今のコンサルテーションは15分ですので4500円プラス消費税になります。それでよろしかったでしょうか」なんていうことになったら、お前はアホか、と愛想を尽かされてしまうでしょう。それで、NEJMで主張しているのは、医療をビジネスの尺度だけで計ると医療の質は低下し、かえって効率が悪いよ、ビジネス対応と、やりがい対応とのバランスをうまくとらない限り、医療の劣化はさけられませんよ、ということです。激しくうなずいてしまいます。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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