よっぽどキンテン化


週末はスペインで、アバスチン情報uptodateのセミナーがあったので遠路はるばる参加してきた。アバスチンは1960年代にFOLKMANにより提唱された「血管新生抑制」が具体化された治療薬である。癌細胞が増殖するのに必要な栄養を運ぶ血管を呼び込むため、癌細胞は自ら「血管内皮増殖因子(VEGF)」という物質を作り、近くの毛細血管に枝分かれを作るように働きかけ癌専用血管を作る。アバスチンは、このVEGFに対するモノクローナル抗体で、VEGFをつぶして血管が新しくできないようにするものだ。つまり、抗がん剤でいじめられ、死に体となった癌細胞が「くっくっ苦しー、水、水を~」という状況で生き延びようと必死でもがいている所に「だめ、だめ、あげない」、と血管が新しく作られるのを抑えて栄養もいきわたらせないようにする、という分子標的薬剤である。イメージとしては「抗がん剤効果増強のターボチャージャーみたいな感じ」である。海外ではすでにいろいろな臨床試験が行われ、大腸癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍、腎癌、卵巣癌などで効果がある。日本での開発は例によって大幅に周回遅れ。大腸癌だけが承認されているが、その他の癌の治療に使われるようになるのは遠い遠い未来のことのようで、今更どうする気力もないぐらい海外とは大きく水をあけられている。しかも、ブラジルとか、マレーシアとか、日本のほうが進んでいる、と思っているような後進国(発展途上国、新規開発国といったほうが良い)でもアバスチンはすでに日常の診療に使用されていて、実は日本よりもずっとずっと先進国なのだ。
ところで、セミナー2日目にはケースディスカッションがあり6例が提示され討論した。日本と違ってすべて実例。日本でよくあるケースディスカッションはいかにもというような作られたやらせ症例なのだがあれはよくない。症例検討では実例をだすように強く推奨する(グレードA)。それで問題は、そこで提示されたケースやパネリストの答えがおかしい、というはなし。70歳女性、ER、PgR陽性、HER2陰性、術後にACとTAMを使用、術後13年目に骨、胸壁に再発。胸壁再発は痛みやむくみがあるというケース。これに対して会場からのアンサーパッドを用いた投票のための選択肢は、パクリタキセル+アバスチン、アバスチン単独、ドセタキセル+アバスチン、パクリタキセル単独、それにアロマターゼ阻害剤単独。岩田先生も柏葉先生も私も、AIでしょう、それしかないよね、という感じ。ところがAIを選択したのは4割で5割強がパクリタキセル+アバスチンを選択。司会者もパネリストも「Cathy Millerの論文でもそれがいいということになっていますね、皆さ~ん」という感じ。日本の方がよっぽどまともにキンテン化している。しかし、ここでわれわれは、はっと気づいた。これは日本のしゃんしゃん大会(5月23日予定)にあたる、Global Shung Shung Congress(GSSC)なのだと。AI以外は考えられないんではないですか、と質問したが、症状があるからケモだ、という説明。確かに、むくみや痛みがあるからケモで、アバスチンによるターボチャージャー効果を期待するという理屈だろう。しかし、visceral crisisというわけでもなさそうだし、13年の無病期間ならホルモンが効きそうと考えて、痛み止めなどを使いながらAIというのが、エレガントながん治療ではないだろうか。しかし、多くの癌治療医は、このようなGSSCにより見えざる大きな力で脳細胞が洗われていくのだろうか。帰国前に洗脳解除プログラムのためビールをしこたま飲んだので多少はGSSCの呪縛からは解放されていると思う。しかし、洗脳というのは自分では気がつかないのだ。昔の映画「マタンゴ」を思い出す。
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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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