乳癌学会が終われば少しは楽になるかなと思っていましたが、そんなことは全然なくって毎日毎日診療に、講演講義に、カンファレンス、座談会などなど、めまぐるしい日々を過ごしております。そんな日々のさなかでも、日曜日には帰省した息子の卓(たく)と浜名湖にカヌーツアーに出かけ豊かな自然のなかでとてもうれしい一日を過ごしました。日焼け対策を全然しなかったのは失敗でしたが・・・(痛い)。また4月から浜松オンコロジーセンターに参加している田原梨絵先生も、持ち前の明るく積極的なキャラ、さすがわが後輩北大卒だけあって冷静沈着で思慮深く、なるほど聖路加育ちの臨床力の奥深さを発揮して頑張ってくれています。山形のお母さん、ご安心ください。
さて、第6回乳癌学会中部地方会も運営委員会メンバーの努力と工夫で、着々と準備が進行しています。口演、ポスターも演題決まり、ポスターは領域ごとに分類して配置、会場での自由な討議の展開を期待しています。「すそのを広げよう、中部乳癌診療」というテーマですので、初学者、初心者にも乳癌診療にこれから参加してもらえるように、教育セミナーを充実させてあります。中部以外の地域の医師(臨床も病理も)、看護師、薬剤師、病理技師、診療放射線技師や、医療系の学生さんたちも、是非、ご参加ください。詳細はホームページをご覧ください(http://www.med-gakkai.com/jbcs-chubu/)。練りに練った当番世話人挨拶を下記にはりつけました。学会は医療関係者限定です。
患者さん、ご家族の皆さんには、8月23日(日曜日)開催の「浜松乳がん情報局 市民公開講座」をご案内します。これは、今回で8回目です。恒例の「あなたの疑問にすべて答えます」では、事前にお寄せいただいた質問、疑問に可能な限り、正面から取り組みお答えいたします。また、今回は九州がんセンターの大野真司先生を迎え、「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」をご紹介いたします。専用申し込み用のホームページをご覧ください(http://www.ganjoho.org/entry/hamamatsu.html )。参加費は無料ですが、会場の都合上、先着240名といたします。
当番世話人挨拶
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浜松オンコロジ-センター
渡辺 亨
乳癌診療は、予防・疫学、検診、画像診断、病理診断、外科手術、放射線照射、薬物療法、精神腫瘍学、緩和医療といった幅広い領域に立脚しています。乳癌患者数と治療体験者(サバイバー)は依然として増え続け、女性の癌罹患率の首位を占める疾患として対応が求められています。我々医師、看護師、薬剤師、検査技師、診断技師はどのような取り組みが必要なのでしょうか。
乳癌の対応策として、マンモグラフィを用いた検診の普及のための努力が払われています。検診の実施、精度管理に関わる検診医、診療放射線技師の育成、技術力の向上や体制の整備により、検診の量的、質的改善を図る必要があります。さらに超音波診断がどの程度、検診手段として役に立つものか、MRIやCTを、果たしてスクリーニングとしての検診に活用できるものか、といった検討も現在進行中です。
しかし、それだけでは解決できない問題も多いのです。「治癒可能な乳癌」イコール「早期乳癌」という単純な時間的概念だけでなく、「悪性度」という生物学的概念にも意を向けることが重要です。それには、まず、正しい病理診断が必要ですが、乳癌を診ることのできる病理診断医は大幅に不足していますし、サイトスクリーナー、病理検査技師も十分とはいえません。病理診断もHE染色標本を使用した診断に加え、機能するタンパク質の発現を知る免疫組織化学染色、遺伝子の機能発現診断、染色体検査などの高度な技法も日常の臨床検査の範疇に含まれるようになってきました。このように一人一人の患者の乳癌を、生物学的特性という観点からとらえることが、治療の個別化の出発点となります。
治療は、最小の負担で最大の効果をあげなくてはいけません。画一的な治療ではなく個別的治療、生物学的特性に合わせた治療を目指さなくてはなりません。乳房温存術は標準的術式であり、そのためには術前化学療法が役立ちます。センチネルリンパ節生検は不可欠な外科的検査であり、腋窩リンパ節郭清の省略は、術後のQOLを大幅に向上させます。ハイレベルな乳腺外科医の手による手術はすばらしい結果をもたらしますが、そのような外科医は充足しているとはいえません。術前あるいは術後の薬物療法は予測因子(ホルモン受容体HER2)と予後因子(リンパ節転移、異型度、腫瘍径など)に基づいて、抗がん剤、ホルモン剤、トラスツズマブが使用されますが、正しい病理診断に基づく適切な薬剤選択、患者のニーズに合わせた情報提供、そして周到な治療計画に基づく万全の副作用対策が必要とされます。
初期治療を受けた患者の約3割は遠隔転移を来します。遠隔転移を来した場合、そこから治癒に持ち込むことのできる確率は1割以下というのが現実です。ここには、初期治療とは全く違った治療戦略があります。適切な目標を設定した包括的な治療計画を立てた上で、医療者も患者、家族も根気よく治療を進めていく必要があります。治療には「適応」と「限界」があるという現実をいかにして患者と共有するか、ということは我々、医療者にとっては、極めて困難かつ重要な課題です。緩和医療の専門的知識、技術は、すべての乳癌治療医が備えるべき臨床力です。また、しばしば、精神腫瘍学の専門家との協力が必要になります。
このように、乳癌診療には、多くの人材が必要です。本学会のテーマである「すそのを広げよう!中部乳癌診療」とは、中部地区での乳癌診療に従事する医療者の数を増やし、質を高めることです。この二日間の学会で、それが達成できるよう、関係各位の皆様のご協力、ご支援をよろしくお願い申しあげます。