帯と襷の電子カルテ


国立がんセンターにいたとき日立の時代遅れの診療支援システム「トランプ」を使わされてあまりの使いにくさにひたすら文句を言い続けました。すると文句を言うならお前やれ、ということで次にIBMの診療支援システムを導入する際に小山博史先生たちといっしょに導入側ユーザーのまとめ役となり「ミラクル」を命名してこれを導入しました。ミラクルでは、とくにがん化学療法オーダリングシステムに知恵と工夫をつぎ込み、あらかじめのレジメン登録やインターバルチェック、体表面積当たりの自動計算など、をできるような仕様をIBMに要求しました。この際、あらかじめ登録するレジメンを薬物療法の専門家に審査してもらうように「レジメン委員会」を立ち上げたのですが、それが、なんと昨年度から導入された外来化学療法加算の算定要件として「レジメン委員会を定期的に開催すること」に採用されててしまっておおごとになってしまったわけです。IBMは我々がつぎ込んだノウハウをうまいこと利用し全国の病院の電子カルテ導入に大成功し大儲けしているそうです。
浜松オンコロジーセンターでは、2006年4月から検査会社BMLが作っている電子カルテ「メディカルステーション」を導入しました。大病院の電子カルテが富士通、IBM、NEC、東芝といった名の通った大手であるのに対して、クリニックではもともとレセプトコンピューターから発展しているので聞いたことのないような小粒メーカーが乱立しています。検査オーダーとのリンクがやりやすいことから、BMLのメディカルステーションを導入したのですが、使い勝手は全然よくありません。所見記録欄はどちらかというと「ワードによる紙芝居」程度。紹介状作製機能は最悪で、画面がフリーズしたようになって数分待たされます。これをBMLにいったところ「クリニックでそんなにたくさん紹介状をかくところはないので、そのような機能には対応していません。」とのことです。浜松オンコロジーセンターでは、セカンドオピニオンの患者さんが多いので、全国各地の病院の先生に返信を書かなくてはいけません。そうすると、宛先のデータベースは膨大なものとなりますが、BMLの電子カルテはとても非力なので対応できないわけです。文句を言い続けたら、エクセルで作ったアドインソフトみたいなものを持ってきて、これで我慢してくれ、ということで不便を強いられています。また、あらかじめのオーダーができません。来週の化学療法を準備しておくための未来予約ができない仕組みになのです。これは、クリニックがそもそも計画診療よりも、行き当たりばったり診療をするということが前提になっているのだろうと思います。ただ、レセプトコンピューターから進化しているので、検査、処置、処方などの医療行為の一つ一つの保険診療が何点か、ということはリアルタイムでわかります。また、医師当たり、診療科あたりの診療報酬が簡単に表示できるので、えすれい病院のように医師の給与明細に「今月の先生の稼ぎは○○点」と出すこともできます。
 
週1回勤務している杏雲堂病院では、電子カルテは東芝製のものを使っていますがとても使いにくい。その原因はユーザーの要望がほとんど考慮されていないようで、たとえば、先週に事前処方しておいた抗がん剤レジメンで、投与量を変更するような場合、一度、オーダーをキャンセルして画面をとじて、もういちど、その患者のカルテを開き、新しくオーダーしなおさなくてはならないという、手間がかかり、ユーザーフレンドリーではありません。紹介状作製機能もいまいちどころかいまごです。ワードで作製すべき文書をエクセルで作る仕組みになっているので、紹介状文面で、改行もできなければ段落もつくれず、太字にするとかの、編集機能が全く使えないのです。東芝がエクセルで手紙を書くという判断をしているのが理解できません。この電子カルテは、私が生涯、出会った中で最低ランクです。
 
月一回勤務している青森県立中央病院では、電子カルテはNEC社製です。これは、かなり使いやすいのですが、ユーザーの声を聞きすぎているのか作り込みが激しく、機能満載ととなっていて、どこにどの機能があるのかわかりにくいという難点があります。しかも、月一回の勤務なので、前回学習したこともすべて忘れているので、いつも、えーっと、えーっとという感じですけど、毎回看護師の太田富美子さんが手伝ってくれるので、その日の午後には自分でも操作することができるようになります。でも1か月後には、また忘れる、という繰り返し。過去の抗がん剤治療履歴などが、もう少しわかりやすく参照できるともっとよいでしょう。
 
電子カルテは今後すべての病院、診療所に導入されていくでしょう。ご年配の先生で電子カルテに不向きな先生もいるようですが、その場合には傍らにかわいいクラークのお嬢さんが常駐してくれるので、電子カルテできませーんのふりをしたほうが労務環境は良くなるかもしれません。使い勝手が悪いもの、機能が不十分なもの、逆に、機能満載で、めちゃくちゃ高価なものなど、どれをとっても帯に短し襷に長し、というのが現状でしょうか。病診連携を考えた場合、現在のように、メーカーが違うと全く互換性がないような仕様では話になりません。互換性があれば携帯をドコモからソフトバンクに切り替えるように、電子カルテも他社製品に乗り換えることも容易となり、だめなところは消え去っていくということになるでしょう。ホスピタル仕様とクリニック仕様を区別することも不合理なことです。これも考え直してほしいものです。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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