Q1
ご無沙汰しております。今日は同門で最近乳腺に力を入れられている先輩からうけた質問のことでメールさせていただきました。Luminal Aのような予後の良いタイプでホルモン感受性が陽性でもadjuvantに化学療法を行う場合の見極めや、化学療法を行う根拠となる論文はあるのかと聞かれて、渡辺先生が知り合いなら聞いてもらえないかといわれました。基本的にはSt. Gallenのrisk分類などを参考にして、大きさやリンパ節転移などのriskが高ければホルモン陽性でも化学療法を追加する考えでよいと思うし、エンドキサンの卵巣機能抑制効果をねらってACを追加することもあるみたいですよ、とは伝えておきましたが、何かアドバイスがありますでしょうか?
A1
Luminal AとLuminal Bは、本来はマイクロアレイを用いた多遺伝子発現分析とその結果をクラスター分析をして、正常の内腔細胞(luminal cell)に生理的に発現している遺伝子にどれくらい似ているか、という観点から、まず分類されました。そして、それぞれの特性を調べてみると、Luminal Aには、ホルモン感受性が高い、分化度が高い、悪性度が低い、というような生物学的特徴を示すものが多く、臨床的にも予後がよく、ホルモン療法がよく効くということが報告されるようになりました。一方、Luminal Bは、ホルモン受容体陽性でも、発現している細胞の割合が低いとか、ERは陽性でもPgRは陰性とか、HER2の発現が認められている、Ki67発現細胞の割合が高い、などの生物的特徴や、ホルモン療法だけでは予後がわるく、抗がん剤の追加が必要だろう、ということが示されています。それで、マイクロアレイを用いた多遺伝子発現分析とその結果をクラスター分析を行わなくても、ER陽性(50%以上)、PgR陽性(50%以上)、HER2陰性、グレード1のような場合には、近似的にLuminal Aとみなして、ホルモン療法だけで治療、抗がん剤は行わない、というような判断が成り立つと思います。腋窩リンパ節転移が1-3個ぐらい陽性でも化学療法は行わない、ということも一般的です。この考え方はSt.Gallen2009でしっかりとしめされており、論文の表3の域値はまさに、Luminal AとLuminal Bを区別するものであると考えてよいと思います。
閉経前で卵巣機能抑制を目的としてACなど、エンドキサンを使用するという考え方もあります。しかし、卵巣機能抑制が目的なら、LHRHアゴニストという、そのための専用薬があるのですから、それを使用するほうがよいと思います。エンドキサンは、二次性白血病の懸念などがあるので、注意が必要だと思います。
Q2
当院の前任者も含めて、この地方近辺ではXC(ゼローダ+エンドキサン)を積極的に行うようですが、進行再発乳癌でゼローダ単剤よりもXCでいくほうがよいのでしょうか。エビデンスとしてはまだはっきり出ていないように思っていたのですが。いまも30歳台で多発肝転移のあるStageⅣ乳癌の患者さんがいるのですが、triple negativeで、FECがPD、ドセタキセルも3サイクル後ですが、肝転移は変わらないのですが原発巣がやや大きくなってきています。腫瘍マーカーの上昇が止まってきたのでご本人、ご家族とも相談しもう2サイクルほど継続予定としましたが、PDだったらその次はナベルビンか、ゼローダ単剤か、あるいはXCか、TS-1かと思っております。XC療法の位置づけについて、もし先生のお考えがあればお聞かせいただければ幸いです。
A2
XC は使用しません。併用の意味はありません。ゼローダは単独で使用、エンドキサンとの併用は根拠がありませんし、二次性白血病の懸念などから、エンドキサンはなるべく使用しないほうがいいと思います。ゼローダは単独でも十分に効果のでる薬だと思います。また、再発乳癌の化学療法は基本的には「単剤で一剤づつ」という原則を否定するようなエビデンスはありませんので、可能限り単剤で使用します。