薬価はこう決まるの巻


新薬を製造・輸入するためのデータは治験で作られる。そのデータをもとに「この薬は日本国民にとって役立つ」ということになると厚生労働省が「製造・輸入」を承認する。そのあとで薬価が決まる。薬価は全く新規の薬剤の場合と、類似薬がすでにある薬では算定方法が違う。全くの新薬の場合は「原価積算方式」、類似薬がある場合は「類似薬効比較方式」となる。原価積算方式の場合、薬の原末の価格がいくらで、それを海外から輸入して工場に運ぶ運賃がいくら、治験にいくらかかった、など、製造、輸送コストや治験にかかった開発費など、すべてを積算する。この際「効果判定委員会参加のための○○先生タクシー代」なんていう項目も資料に出てくる。○○がんセンターの先生のタクシー代6万円、えっ! 東京からMSMまでタクシー使ったわけ??、本人の顔を思い浮かべることができる場合もあるので有意義だ。それとか○○米医大では治験1症例あたり200万円、○○県がんセンターでは50万円、どうして施設によってこんなに違うの??とか、○○大学病院では、5例の契約で800万円の治験契約が結ばれたが、実際治験を行った症例は2例、でも5例分の治験費用が支払われている、など、今話題の業務仕分けをすれば、すべて減額の対象のような項目ばかりだ。また「原価積算方式」では、営業利益率が20%と設定されている。これは、たとえば1錠582円のアリミデックスの場合、1錠売れれば117円がアストラゼネカ社の利益となるという計算だ。お商売をやっている人なら、え~っ、と、びっくりするだろう。470円で仕入れたものが582円で売れる、仕入れ値の25%増しの値札をつけるなんてよっぽどの殿様商売だ。医療機関ではどうだろう。このご時世、医療費はどんどん削減されている。営業利益率は、医療機関では、「医療収益のなかでの可処分所得の割合」であらわされるが、これは10%以下、数%の場合が当たり前である。その上、消費税は医療機関もちとなる。すると、利益率4%というような場合は5%の消費税を医慮機関で支払うので、マイナス1%の逆ザヤとなってしまう。世の中の経済の仕組みがおかしいように感じる。医療機関あっての製薬企業なのに、製薬企業の利益率は20%、医療機関は赤字・黒字線上をさまよっている、こんな理不尽なことがあるだろうか!!!! ざけんじゃねー!!・・(失礼)。一方、新薬でも、類似薬がすでに市場に出回っているような場合、その類似薬の価格をもとに、どれぐらいの新規性があるか、有用性があるか、ということで加算されて薬価が決まる(類似薬薬効比較方式)。たとえば、「○○スタチン(高コレステロール薬)」、「○○セトロン(抗がん剤の制吐剤)」など、新薬といっても、既存薬に毛の生えた程度のジェネリックみたいなものもある。その場合には、有用性加算は「ゼロ」で、既存薬と横並びの薬価となるのだ。また、「原価積算方式」でも「類似薬薬効比較方式」でも、海外価格との差を最後に調整する。海外価格に比べて、著しくことなる場合には、高くしたり、低くしたりと調整するわけである。ここで、問題となるのが「海外価格」。諸外国は一律かというと全然違うのだ。アメリカがダントツに高い。イギリス、フランス、ドイツなどは、ほぼ横ならび、薬剤によってはアメリカの価格が他国に比べて3-5倍ということもある。海外価格を平均するとアメリカの価格に引っ張られるので、それに合わせるとなると日本での価格が上方修正されてしまう。アメリカをお手本に生きてきた人々(アメリカでわの守)や、外資系製薬企業は、アメリカ並みの価格をつけないと、日本のドラッグラグ(世界で使える薬が日本で使えないという状況)は解消されない、ととんでもない馬鹿なことを言う(ロハスメディカル11月号対談参照)。しかし、医療費の仕組みが根本的に異なる国「アメリカ」を参考にするのは意味がない、と最近考えている。イギリス、フランス、ドイツなどは、医療費の公費負担率は、日本と同じ80%であるが、アメリカは30%。つまり私費で賄われる医療費の割合が高いので、民間の保険(アフラックなど)に加入できるだけのお金持ちは、高い薬剤も使えるが、貧しい、あるいはふつうの人々からみると、とても高い薬剤ということだ。日本は、ふつうの人々の集まりなので、アメリカを参考にしてはいけないのである。いや、日本は貧しい国の仲間入りをしているので、日本の薬価は海外での薬価の最低値よりも低く設定するべき時代になっているのである。日本は貧しい、という認識をもって各製薬企業も考えないといけない。貧しい国なので新薬が認められていないのは日本と北朝鮮だけ、ということでも仕方がない、お寒い季節の到来だ。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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