午前中のgeneral session1、全体的な感想は、 閉経後のアロマターゼ阻害剤データの焼き直し、再解析のようなものばかりで低調である。拍手もパラパラという感じ。最後の2演題は乳癌術後にアルコール多飲は再発率が高くなる、術後の肥満も再発率が高くなる、というもの。どちらも術後の女性にとっては切ない話だ。
① TEAMトライアルの解析結果が発表された。TEAMトライアルはエキセメスタン5年と、タモキシフェン2.75年→エキセメスタン2.25年の途中スイッチの比較。当初は、エキセメスタン5年対タモキシフェン5年を比較する予定だったがATAC、BIG1-98の結果が出たので途中切り替えに変更となった。10000人近い症例を対象にしたこの試験、日本からも自治医大の穂積康夫先生が頑張って200人ぐらいの症例登録をしたグローバル試験である。それで、大きな期待を寄せたのだが・・・・、OSもDFSもRFSも、いずれの指標でも「差がない」、という結果だった。がっかり、というのか、なんだったのかというか、なんとなく虚無感が残る。副作用のプロフィールはAIとTAMのそれぞれの特徴がでているが、新しいことはなにもない。BIG1-98試験では最初2年間TAMだと再発が増えてしまうので、最初の2年はどうかひとつレトロゾールで、ということだったが、TEAMトライアルではそれが再現されていない。どちらが正しいのか? TEAMトライアルの方が症例数が多いが、BIG1-98試験ではダブルブラインドでやっている、と、試験のデザインには一長一短があるが、いずれにしても、TAMとAIは、確かに差はあるが、その差は、意外と小さいということなんだと思う。
② IESのフォローアップ解析の結果が報告されたが、目新しいこことは何もなかった。
③ MA17試験の閉経前症例だけについての検討。MA17試験は5187症例を対象に TAM5年の後でランダム化割り付けして、レトロゾールを5年内服する群とプラセボを5年内服する群の比較で、レトロゾールを追加した方が再発率が低下する(ハザード比0.61)という結果だった。この試験は、TAM内服開始の時点では、まだ試験の対象ではなく閉経前でも閉経後でも、とにかくタモキシフェンを飲み始めて、5年の間に閉経すれば試験の対象となる。TAM内服開始時に閉経前だった889症例を対象にサブセット解析をしたのが今回の報告。結果は、ハザード比0.25(95%信頼区間0.12-0.51)と、大きな効果が得られた、というものである。内分泌学的にどんな意味付けができるのだろうか、と考えてみたが、ちょっとわからない。やはりサブセット解析だし、症例数もそれほど多くないので、この結果は、この結果として記憶にとどめておいて、おもちかえりメッセージは「タモキシフェン飲み始めのころは閉経前の患者でも5年飲んで閉経したような場合、AIを追加してもいいみたいよ。」ということでどうだろうか。
④ MA27試験の対象患者で、関節痛などの副作用の強い患者は、とくに効果がよいということはなかった、というのが次の発表。これは、ATACトライアル参加症例について、統計家のJack Cuzickが、「関節痛、ホットフラッシュなどの副作用が強い患者は再発率が低い。」という結果をLancetに報告したものだから、副作用に苦しむ患者は、「がまんしなさい。薬が良く効く証拠だから。」と、治療継続を主治医から勧められるという根拠となっている。今回の発表の結論も、臨床医は、患者に治療の話をする際に、副作用がでるのはいいことだ、みたいなことは言わないように、というもの。
⑤ 同じくMA27試験で関節痛がでた患者、出なかった患者で、なにか遺伝子に差はないか、ということで、SNPs(単一ヌクレオチド多型:遺伝子の塩基A、T、G、Cの並びのなかで、どこか一個が別の塩基に置き換わっていること)を調べたところ、14番目の染色体に4か所のSNPsが見つかったというもの。そのうちの一つは、TCL1Aと呼ばれるもので、T cellの働きの制御に関係しているらしい。また、別のSNPsは、エストロゲン受容体の機能に関係しているものが見つかった。場所がきまれば、SNPsの検査は、数百円でできるような臨床検査になる。そうなれば、副作用の出やすい人、出にくい人、を事前に識別することができるだろう。SNPsも治療で治る人を識別できるぐらい信頼できる検査になればいいとおもう。
⑥ 次の演題は、BIG1-98試験の解析方法についてのもの。ご存じのように、BIG1-98 は、途中でレトロゾールの方が良く効くという結果が公表されたので、タモキシフェン群に割りつけられた被験者の25%が途中でレトロゾール内服に移った。そのため、ITT解析(言った通りの解析)と、打ち切り解析の2種類の解析方法で、二回目の検討がおこなわれた。しかし、演者は、「最近の試験では、このような変更がおきることが多いので、統計解析もITT解析から新しい解析方法へパラダイムシフトをしないといけない。」ということで、Inverse Probability of censoring weighed analysis(IPCW)という方法が紹介されて、それで解析するとこうなる、という発表。私たち臨床医は、治療をしなかった患者も含めて解析するのはしっくりこないと思いつつも、統計家の先生が、ITTじゃないとだめだ、というから、一生懸命ITTになじんできたのでが、また、わけのわからない解析方法が導入され、それになれろ、というのでしょうか?統計家の声は神の声。ときには神もへんなことを言う、という話だ。
⑦ アルコールを飲むと乳癌になる、あるいは、乳癌術後のアルコールを飲む人は再発しやすい、という研究は山のようにある。今回は、どんなアルコールを飲むと、再発がふえるの、死亡率があがるの? どんな人にその影響があるの? という発表。ワイン、ビール、その他の中では、ややワインが悪いらしい。日本酒はどうか、ということはわからないので、当面は、日本酒を飲みましょう、という結論ではありません。
⑧ 肥満の人は、乳癌再発率が高い、というのが、次の演題。BMI(Body Mass Index)が30以上のひとは25以下の人に比べて、再発のリスクは1.6倍だそうです。すると、アルコールをやめて、体重を減らす方が、アロマターゼ阻害剤を内服するよりも再発抑制効果が高い、ということになる。できるかできないかは別にして、どうでしょうか、少し頑張ってみますか。
午後 general session2
午後2時45分からのこのセッションは、日本時間で朝の5時ぐらい、しかも、食後なので気づくと眠りに落ちているという危険な時間帯だ。隣にいるホズミンも今のところ、覚醒しているようだ。さあ、元気出して聞こう!
最初の2演題では「ビスフォスフォネートを飲んでいる人は乳癌発症率が低い、という研究結果が発表された。一つは、コホート研究、他はケースコントロール研究である。ハザード比はどちらの研究も0.7ぐらい。昨年発表されたABCSG12試験は、乳癌術後に、ビスフォスフォネート(ゾメタ)を注射する人としない人をランダム化比較したところ、注射した人では乳癌再発率が低い、ということであるが、今回の二つの検討は、ビスフォスフォネートを1年以上内服している女性は、乳癌になりにくいという結果である。ABCSG12と同列に考えていいような気もするが、ちょっと違う話のような気もする。違うというのはこういうことだ。今回の発表では、「骨粗鬆症があるのでビスフォスフォネートをのんでいた」ような人は、骨粗鬆症がない人に比べて、やや、体格もかきゃしゃだろうし、痩せているだろうし、アルコールもそんなにがんがん飲まないだろうし、もともと、乳癌発症リスクが低い。そのような人が「ビスフォスフォネートを飲んでいる」ということで検討されたのかもしれない。つまり、もともとなりやすい体質という事実と、ビスフォスフォネート内服という事実との交絡の結果とも考えられる。
そのあと、ファスロデックスの演題が三つ発表された。この薬剤は、「pure antiestrogen」とよばれ、タモキシフェンと異なり、微妙なエストロゲン作用がなくて、100%抗エストロゲン作用なので、きっと、タモキシフェンよりもすぐれているだろう、ということで、私も国立がんセンターにいたころに、臨床開発(治験)にかなり積極的に関与した。しかし、結局、タモキシフェンとのランダム化比較で効果はタモキシフェンに劣るという結果出た(JCO 2004;22:1605)。ファスロデックスはお尻のほっぺたに月1度5mlのひまし油にとかした薬を5分ぐらいtかけて力をこめて注射するものだ。患者さんも痛いが打つほうも手がしびれるほど。その時に感じたことは、完成度の低い薬だなあ・・・ということ。そのファスロデックスがよみがえり、アナストロゾールとの併用、投与量の増量などが検討されたが、いずれもしょぼい結果であった。どれぐらいしょぼいかは、アストラゼネカのMRからよくよく話をお聞きになるとよいでしょう。今日はこんなところです。