医局の底力


医局に所属しない医師が半数を超える時代になった。しかし、医局員を確保したい大学医局は様々な術策で医局体制を維持しようとしている。ある辺境の大学医局の実態を知る機会を得たのでおひれを大きくつけてお伝えしたい。
事例1 医局に入らずに基幹病院で研修を続けてきたA太郎先生、研修終了後、外科スタッフとして就職したが、救急外来とマイナーな手術しかやらせてもらえず、胃がんとか大腸がんとかいうようなメジャーな手術は医局人事で固まっている医師が独占。これでは外科学会の専門医は取得できないと、A太郎先生は心ある先輩のつてで手術件数をこなせる病院に勤務後、隣県のがん診療拠点病院で乳癌診療経験を積んで相当な実力をつけている。A太郎先生は最初から医局と無関係なので直接医局からの働きかけはない。しかし、A太郎先生が県内に戻ってくるらしい、X病院とコンタクトをとっているらしいという情報を得た医局は、医局長を通じて、X病院の外科部長に「おたくはA太郎先生を採用するらしいが、その場合、今後、医局からは一切、ひとは派遣できないとprofがおっしゃっていますが、よろしいでしょうか?」と圧力をかけているそうだ。X病院としては、大学を敵に回すことは、他の診療科にも影響が及ぶことになるので、今のところA太郎先生とは無関係というスタンスをとっている。しかし、すでに手は打ってあって、医局に所属しない医師、あるいは隣県の大学病院に医師供給源を求めつつあり地元大学の医局の影響力は急激に低下しているという。時代は変化しているのに、それに気づかない医局はいまだに古き良き時代を謳歌しているのだ。
 
事例2 医局に所属することに疑問を感じつつあるY病院のS彦先生、医局の行事にはほとんど参加しないS彦先生の挙動は、医局長も問題視しているようだ。その医局は、関連病院のある街で同門会忘年会をもちまわりで開催するしきたりになっているが、忙しいときに、しかも交通の不便な遠隔地まで行き、会っても楽しくもない先輩から説教を食らうのはまっぴらと、S彦先生は欠席するつもりにしていた。ところが前日に医局長から電話があって「おまえが参加しないというのなら今後、Y病院には、医局からは一切、ひとは派遣できないから、覚悟しろよ。」との恐喝。仕方なく時間をやりくりして参加、夜の宴会では、酒も飲まずに酔っぱらったふりをして、派手なパフォーマンスを披露、同門の先輩らに参加を印象付けたのち、夜中に車を運転して帰ってきたそうだ。
 
医局に所属していれば無能な人間でもどこかの病院に就職口を斡旋してくれるなど互助会組織である医局の団結力は、かつては二所ノ関一門よりも強かった。しかし「人を送らないぞ」という殺し文句が通用しなくなりつつある現在、医局の求心力は急速に低下しているのは間違いない。いままで、医師の活力ある移動を阻み、医療の均てん化を妨げてきた医局の完全崩壊は全国的に進んでいる。新しい時代に医師になる人たちは、よっぽどしっかりと自分の将来計画を立てなくてはいけないだろう。どうにかなるさ、は通用しない。もう、医局はあてにならない。
 
(古き良き時代)
 
 
 
 

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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