視点、論点、問題点


いろいろな考え方、立場、イデオロギーはあるだろうから、一つの事象を一面的に決めつけるのはよくない。かといって、自分はどういう視点からものを言っているか、という自分の立ち位置が全く定まっていないというのも困る。大きな政府、小さな政府という二極でかんがえてみたり、個人主義、全体主義という切り口でわけることもできるだろう。今回は教育の話、ちょっと考えてみた。

 

子供の教育 子供の教育についても、どのような視点で考えていくか、という立ち位置は難しい。自分の息子の教育という話と、社会一般の若者の教育というのも、同列、同方向に考えてよいのか、これも意見が分かれる。自分の息子なら、愛情を注ぎ、お父さんはこう考えているよ、という姿勢を表現すれば、どこかで、いつの間にかしみこみ、たまに見る行動や、ときどき聞く妻を通じて聞く息子の言動から、ちゃんとわかっているな、と感じることもよくある。

 

自分の場合 高校の頃から、受験勉強の合間に1階に降りていくと、父が夜遅くまで医学書を読んでいた。Z会の英語添削で分からない、全く理解できないような長文問題を父に「これ教えてよ」というと辞書も引かずに「これはこういう意味だ」と大筋を教えてくれた。そして「細かいことは自分で文法書を読んでごらん、きっと書いてあるよ、それでわからなかったら朋三さんにきいてみな。」というような大局をみるような勉強の仕方を父は教えてくれた。ちなみに朋三さんというのは浜松西高の英語教師で私が英語を好きになるきっかけを与えてくれた恩師である。父が学生時代に通っていた英語塾(斎藤塾)の後輩でもある。父は気になるところがあると、Websterの英英辞書をもちだしてきて、自分で納得がいくまで調べていた。数日後に「この間の英語の解釈だけどさあ」とこっちが、「なんだっけ」と忘れてしまったことを、いろいろと解説してくれることもあったが、息子としては、「それはもういいよ」みたいな、よその大人には言わないような身勝手ことを言ったこともあった。

 

宮仕え 父は常々、「宮仕えは一度は経験しておく必要はあるが一生やるもんじゃあない」と、公務員生活は重要であるかもしれないが、基本的にばからしいこと、ということを私に教えてくれたので、私もその通りの考えになった。また70才を過ぎて、勲何等とかいう勲章をもらったときも、こんなものはどうでもいい、というようなことを言っていた。「勲一等とか、勲五等とか、それ、どう違うの」と聞いたら、「まあ、そうだな、天皇陛下にどれほど近いか、っていうことだな」と皮肉っぽく言った。「天皇陛下に近い方がいいわけ?」と聞くと、「そう思っている人間もいるっていうことだ」と、世の中には、つまらない人間がいるんだ、って言うようなことを教えてくれたので、私もその通りの考えになった。学会とか班研究とかでいろいろな先生の発言を聞いていると確かに中には、天皇陛下が一番偉いんだ、みたいな考え方がしみ込んでいる人がいて「厚労省のお役員、かれは、確か東大を出た方で、若いのに、ものははっきりいう人ですが、その方のお墨付きを頂きましたし・・」、とか、「がんセンターのお若尾い先生ですが、情報のトップの先生も出席されますから・・」とか、いかにも田舎侍チックで、ばからしい、と思うような活動に無駄な税金が使われているような気がすることがよくある。よくみんな黙っているなあ、と思うが、黙っていれば研究費が降りてくるという仕組みもあるのだろう。

 

よその子の場合 浜松医大に講義に行く仕事も増えてきて、昨日は臨床薬理で、細胞毒性抗がん剤、分子標的薬剤、をそれぞれ1時間30分かけて講義した。細胞毒性抗がん剤では、作用機序毎にざっくりと分類して大枠をおぼえておいてね、副作用が強い理由はこういうことだよ、タキサンでどうしてしびれるか分かる人? 吐き気はこういうメカニズムでおきるんだよ、好中球減少、悪心・嘔吐などの副作用対策が重要だよ、抗がん剤は確かに副作用は強いが腫瘍内科医が手掛けるとそうでもなくなることもあるよ、それと忘れてはいけないこととして、緩和化学療法っていうのも重要だよ、SSさんの話を紹介するよ、癌の種類によって、抗がん剤の効果もいろいろなんだよ、中には、従来の細胞毒性抗がん剤ではどうもならないような疾患もあるけど、分子標的薬剤がめざましい効果をあげている領域もあるよ、この続きは、2時間目でね、20分休憩します・・。ここまでは朝850分からだったので、前半は出席者は後ろ半分ぐらい、前から数列はがらがら、で、途中で入室者、ぱらぱらとあり、でもその頃には、寝ている子たちが結構目立つ。休憩前に「お休みになっている学生さんはそのままお休みください」と、皮肉を言っても馬馬耳東風。講義で寝ているのは許せない、というスタンスで何回もこのブログのテーマになっている。講義をする立場に立ってみると、一生懸命新作ネタをいれて、スライドを作り、ストーリーを考えて準備して、忙しい外来を田原先生にお願いね、と頼んで、前の日にスライドまだですか、と催促されて、昼休みも取らずにスライド完成させて秘書さんに送り、講義が終わって帰ってきて昼休み返上で外来をやってそのまま東京に行き会議に出て・・・、と、こんなに一生懸命やっているのに、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、学生教育はなとら~ん、ということになる。教育する立場に立ってみると、国立大学の学生教育として、医師一人を育成するのに、三億円かかる。自分たちの教育にそれだけの税金が投入されているという事実を何と認識するか、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、一体、何を考えているんだ~、ということになる。学生の身になって将来を考えてみると、若いうちから授業中に居眠りする習慣をつけると一生居眠り人間になるよ、がんセンターの総長やったようなえらい先生も会議中、講演中、良く寝ているもんね、それとね、せっかく講義で、いろいろと新しいことが勉強できるんだから、その講義で寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、していたら、時間の使い方が下手だよ、もったいないと思うよ。同じこと、自分で勉強しようと思ったら、何十倍も時間がかかるぜ、それよりは、びしっと集中して聞いていれば、いいんだから、講義はもっと大切にするべきだよ、ということになる。

 

よその子の教育の提案  外部から先生が来てくれたら失礼のないようにご挨拶しなさい、とか、元気よく手を挙げて質問しましょう、とか、小学生でも教えていることだ。それが大学生になると突然出来なくなるのは浜松医大だけの話だけだろうか。いやいや、きわめて優秀な学生の集まる我が故郷の医科大学だけ、ということはないはずだ。たまたま、この学年だけだろうか? いやいや、去年もおととしもその前もそうだった。ということは中学とか、高校とかの教育が悪いのだろうか。たぶんイエス。とくに受験勉強だけやっていればいい、父親と話をする時間もない、母親も放任。こんな若者が大学には受かったけれど、人間教育が欠落したまま医師の道を歩み始めるからこんなことになるのだ。学生のうちは、人に迷惑をかけないから、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったりしてもいいかもしれないが、医師になって人を助けなくてならない立場になって、それで、寝ていたり、おしゃべりしていたり、出たり入ったり、しているようでは、ちょっとまずいだろう。こういう教育のために大学生になったら半年ぐらい小学校にいく、というのはどうだろうか。それは冗談としても、研修として、社会人としての心得や接遇を医学生には、早いうちからたたきこむ必要があるだろう。

 

2時間目 分子標的薬剤 細胞毒性抗がん剤治療には当然限界もあるので、分子標的薬剤に対する期待も大きい。作用機序が選択的だからといっても、副作用は結構強く、皮膚障害とか、肺、心臓障害も時に重篤となる。でも、ハーセプチンの開発にたずさわって以来、やっぱり、夢を感じる。講義では、ハーセプチンの乳癌治療と、胃癌治療の話、これは、赤い鳥小鳥、なぜなぜ赤い、赤い鳥小鳥、赤い実を食べた、ということで、HER2陽性ならハーセプチン、乳癌だから胃癌だから、ということは関係ないという話。EGFRに関連して、山本信之先生に頂いたイレッサのスライドや、大腸がんの分子標的薬剤の話では嶋田安博先生にスライドを頂いた。これらを駆使して分指標的薬剤の話を組み立てた新作ネタを披露した。2時間目なので、お寝坊したお友達も、続々集まってきて、昼食までの時間、さすがに教室は満席である。空腹だから居眠りもしない。20分を残し1130分に終了、質問があればどうぞ、といっても手を挙げて質問する子供もいないので、質問がある方(子)は、前に来てください、と、臨床薬理の渡邊裕司先生も一緒に前で立っていてくれたが、ひとりの学生が副作用のことを聞きにきただけで、あとの子は、挨拶もしないで、ありがとうも言わないで、眼も合わせないで、会釈もしないで、教室を出て行った。

 

急いでオンコロジーセンターに戻って外来をやって1410分のひかりで上京、本当かどうか疑わしいが最も大切といわれる厚労科研78番目の班会議に出席し193分のひかりで帰宅。田原先生がしっかりとやってくれるので、あちこちに出向いてもオンコロジーセンター機能は安心だが、今日の午前、午後の外勤は、どの程度、世の中のためになったのか、と考えるといささか後味が悪い。

 

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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