ドラッグラグ、つまり海外で使える薬が日本で使えないという話がまたまた問題になっていて、これを解消するため厚労省に委員会が立ち上がったという話をニュースでやっていた。またまた、というのは、2003年にも、当時の野党だった仙石議員が日本で使えないがん治療薬があることを指摘、坂口大臣の肝いりということで「抗がん剤併用療法に関する検討会」というのができた。私もその委員会の委員をやるようにいわれてエピルビシンのFEC100、ACの60mg/m2、デカドロンの制吐剤としての適応、などが治験なしで承認されるように仕事をした。さらに乳癌に対するカルボプラチン+パクリタキセル+トラスツズマブなど、もうすこし仕事をするぞ、というときに、唐突に「この委員会は今回で打ち切りです」ということになって1年ぐらいで幕を閉じた。今思えば、あれは未承認薬に対する国民の不満が表立ってきたので、そのガス抜きのために、周回遅れの積み残し薬剤を一挙に、超法規的に承認してしまおう、という活動だったのだ。委員長は、黒川清先生だったが、なんか、一人で喋っていたような印象がある。それで、また、今度、患者団体などからの不満解消、ガス抜きのために委員会が立ちあがったのである。こんな感じで歴史は繰り返されており、なんら進歩もなく、行政の不作為が繰り返されていく。なぜ繰り返されるのか、それは、薬事行政に根本的な欠陥があるからだ。抗がん剤が特に注目されているが、他の領域の薬剤でも、承認遅れは結構あるようで、たとえば、先月承認された新しい糖尿病治療薬「シタグリプチン」は米国で承認されたのが2006年だからドラッグラグは4-5年ということになる。癌治療薬がとくに脚光を浴びるのは「癌は命にかかわる病気」ということになっていて「命を助ける夢の薬を厚労省が認めてくれない」という構図は世論に訴えやすいということのようだ。しかし、ドラッグラグで話題になってきたドキシルとかアバスチンとか、あれば治療の幅は広がるが、命を助けるというほどのパワーは残念ながらない。先進国では承認されていて世界で承認されていないのは日本と北朝鮮だけという、笑い話のようなことが癌治療薬ではよくある現実なのだ。なぜ、ドラッグラグが生じるかというと、それは、承認するプロセスが遅い、というような単純な話ではない。私が思うに、当局は審査、承認する能力もないのに、手とり足とり、ああせい、こうせいと、口を出しすぎるからいけないのだ。たとえばパクリタキセルについて。当初は3週1回投与というのが、乳癌で承認された用法であった。しかし、日本で乳癌治療に承認された1999年、既にアメリカでは週1回投与方法がいいという兆しが報告された。この方法をやってみると確かに効果は高いし副作用も少ない。それで、一気に広まる気配を示した。しかし、承認されていない用法ということで、あちこちの病院で「保険で切られた」という話が全国に広まった。しかし米国では、術後治療、再発後治療、術前治療、いずれでもパクリタキセルは週1回投与方法のほうが3週1回投与方法よりも優れているというエビデンスががんがん出てきたにも関わらず、日本では、週1回投与は、法律違反とまで言い出す体制派も現れ、挙句に週1回投与方法の治験を行うということになって、それでやっと承認されたのが2007年12月だ。だから、パクリタキセルは乳癌治療に使用OKということを承認したら、用法とか、組合せとか、エビデンスが次から次にでることについていけないのだから、とやかく言わない方がよいのではないか。がん対策基本法もできた事だし、用法、用量、併用方法などの現場的な話は癌治療の専門家にゆだね、当局は、手とり足とり余分なことは言わないようにしたらどうだろうか。最近のはなまる行政はジェムザールを単剤で乳癌治療に承認した事。よしよし、そうこなくっちゃ。大きな政府になりたいのなら大きな人間になりなさい、というわけだ。間違った歴史は繰り返さない方がいい。