5周年記念独り言 父の背中と友の声


浜松オンコロジーセンター開設5周年をむかえる2010年5月も春らしい穏やかな一日から始まった。街角がん診療の理念の下に、患者の声に耳を傾け、出来ること出来ないことを仕分けて、出来ることに対してBest Effort Principleで臨むという基本姿勢は、スタッフの間にも浸透してきた。地域のがん医療の在り方も、少しづつ変容してきており、重厚長大なメガホスピタルにすべてをゆだねる現行の「がん診療拠点(きょとん)病院ピラミッド構想」は国立がんセンターの崩壊とともに過去の遺物となり、医療と介護が一体化された地域がん診療へと目標が再設定されたように思う。あらたな目標は、街角がん診療の方向性と合致するもので、さらに「がん介護」の在り方を模索する必要が生じてきた。浜松でも、青森でも、そして東京でも、「在宅がん介護」っていうのをどのように、安心、安全、安楽系の社会保障として実現していくか、を具体的な課題として取り組んで行きたい。
地域医療を考える上で県西部浜松医療センターのオープンシステムについて紹介したい。医療センターは、強烈な赤字にあえいでいるがいい病院だ。前身の浜松市医師会中央病院時代から、診療所医師が院外主治医として診療に参加する「オープンシステム」を採用している。これは、父、渡辺登ら、浜松市医師会の当時の若手が、地域医療の新しい形態として、その実現に取り組み、全国的にも注目されていた時期があった。しかし、院内の医師にしてみれば外部の医師が、それもしろうとが診療につべこべと口を出しわずらわしい、という意見があった。また、院外主治医も、忙しい診療の合間に時間を割いて回診しても、患者には感謝されるけど病棟の看護師や医師には、どこのおやじだ、みたいな顔をされるためだんだん足が遠のく。現在ではこのオープンシステムを利用している院外主治医は30名前後らしい。私は医学部学生のころの夏休み、帰省し父の診療を見学したり往診について行ったり、医療センターの回診について行ったことがあった。父は9階まで階段で昇るのが自慢であった。そして入院患者のいる病棟を順番に回るのだが、顔見知りの看護婦が多くいて笑顔で迎えてくれた。その都度、言わなくてもいいのに「これ息子で、今、北大の5年目」と私を紹介した。ずっと歳月が流れて10年前に姉が手術のために入院した時にも、父と一緒に病室に見舞いに行った。その時も父は、右手を挙げてナースステーションの看護師に、じゃ、あとよろしくう、と挨拶をしたが、父を知る看護師はほとんどおらず、だれ、あのひと、という顔をされた。だから、手を挙げるの、やめなよ、と言ったことが何回もあったが父は知らん顔だった。そして今、私が、父と同じように医療センターに入院している患者を回診している。毎日、とにかく金曜日以外は毎日、必ず回診するように心に決めている。一番の理由は顔の見える病診連携を模索しつつ、がん医療-がん介護連携の足がかりも作れないかと可能性を探っているのだ。血液疾患の病棟やら、消化器疾患の病棟やら、乳癌の病棟やら。乳癌病棟に行けば、天野さんとか、マスクをしていても識別できる看護師がいるが、他の病棟では、マスクの似合う看護師は多いが、ひとりひとり識別できないし、書類の在りかを聞いても知らん顔されたりだが、かまわずめげず、じゃ、あとよろしくう、と父のまねをして回診を続ける。この話を静岡の高木正和先生に先日したら、「静岡県立病院でも、院外の先生がきているけど、病棟で会うとかならず、『こんにちは、お疲れ様です。お世話になります。』って大きい声で挨拶して、研修医たちにも紹介するようにしてるんだ。そうすると開業の先生も来やすいし、しょっちゅう連絡くれるし、退院後も気持ち良く引き受けてくれるし、若い奴らもちゃんと挨拶できるようになるからね」と、親友ののすばらしいことばに胸を打たれる。とかく、形ばかりの病診連携だが、院外医師も、院内医師も、それぞれのミッションを正しく理解し、パッション、ハイテンションでうまくやれるのだ。挨拶もろくにできない、研修医が増えているが、それは、教える側にも問題がある。父の姿を思い浮かべながら今日も医療センターに行ってきた。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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