難しい選択


週末は乳癌最新情報カンファレンスが沖縄で開催された。宮良先生、蔵下先生を中心とした「チームOKINAWA」の面々の結束と情熱で中身の濃いカンファレンスだった。でも戸惑いも多かった。このカンファレンスへの参加は今回が最初である。そして最後というのことだったし盟友の宮良先生が情熱を傾けて準備してきたことから、私と同じように最初で最後の心意気で参加した仲間も多い。このカンファレンス、立ち上げのころに参加しないかと誘われたが断った。遊ぶための口実のためにリゾート地で開催するいうゆがんだコンセプトが見え見えだったし、屋久島、淡路島・・・と開催された初期の頃から批判はしなかったが、静かに参加を断っているうちに「渡辺先生の嫌いな」という形容句がついたので演者としても誘われることはなかった。時を同じくして乳癌学会地方会が発足しつつあり、そちらを充実することが先決でもあった。このカンファレンス、すべてのセッションに製薬、医療機器企業が1:1の形で協賛しているので、なんか、他人の財布を当て込んで享楽にふける、という、昭和末期から平成初期のおねだりん時代の残像が見え隠れするようにも感じる。最初の頃は世の中もおおらかだったし「先生方の勉強を支援する」という理由が許容されていたが、お金に色はついていないとは言え、だんだんひもつきカンファレンスに対する批判や反省が表出されもし、また、利益相反の開示や、カンファレンス運営組織によるイブニング、ランチョンセミナーの運営など、透明性の維持が求められるようになってきた。そのため、このカンファレンスは今回が最後という話が乳癌学会理事会でも言及され、そういうものか、そのとおりだよな、という感覚で今回参加してみたのだ。内容は、準備もよくチームOKINAWAの行きとどいた心配りで、よい勉強、充実した交流ができたことは、改めて感謝したい。しかし、最後だと聞いていたのに来年も、再来年も開催される予定という話になっているようで、はたして時代の流れに逆らうことは可能なんだろうか、トレンドを眺めていきたい。三日目には、センチネルリンパ節生検のプラクティカルな取り組み、マンモトームの実態検討、そしてDCIS徹底討論など、普段の学会では薬物療法などのセッションに参加しなくてはならないので、なかなか聞くことができない話を聞くことができた。すべて一会場での開催の良さはこういうところだ。なかには三日目に早朝からゴルフざんまい、年寄りがカンファレンスに出ないでゴルフに行くのはかまわないが、病理を勉強しなくてはならない若手がひょいひょいとゴルフに誘われてついていく姿は情けない話だ。昭和の残像を見た思いがする。2日目の再発後の治療のセッションでは、岩田先生がCUREをめざすと主張する役回りで、私がCAREを重んじるという役回り、ジャイアント馬場対デストロイヤーのようにバトルを演じるように胴元からは期待された。しかし、この話題はバトルにはならない。最善のCAREを提供し続けることで、中にCUREがえられる場合が出てくる。だから「BEST EFFORT PRINCIPLE」がキーワードである。思いは私も岩田先生も同じなのである。
このカンファレンスの期間中に、With Youという患者との語らいの会に参加する羽目になった。あまりたのしくなかった。というのは、そもそも個々の患者のもつ医療上の問題は、1:1の医師患者関係において、医療の枠組みのなかで、解決すべきであり、そこに医療者としての社会的義務と責任が法的にも伴ってくるものである。多数の患者、市民を対象とした医療に関する情報、知識の提供、伝達とは根本的に異なるものである。とにかく出てくれというので、参加したが、個別の患者の医療相談となり、相談を求められる以上、「今、あなたが受けている治療は不適切である」と言わざるを得ない局面も出てくる。抗がん剤治療をうけていて便秘がつらいという患者さん。抗がん剤はなんですか、ときいたらパクリタキセルです、という。これで、すぐに答えがわかる。パクリタキセル、ドセタキセルなどのタキサンはアレルギー反応防止、むくみ発症予防のためにステロイドを前投薬として使用することもあり、制吐剤として5HT3ブロッカーは全く不要だ。なのに多くの病院でグラニセトロン、パロノセトロン、ラモセトロン、オンダンセントン、カンレイセトロン、トロピセトロン、アザセトロン、ドウデモセトロン、インジセトロンなどが前投薬に使用されている。これらのセトロンは、消化管の運動を抑制するので便秘は必発である。シスプラチンやACなどは、悪心・嘔吐誘発作用が強いのでこれらのセトロンとステロイド、アプレピタントを併用しなくてはならず、便秘対策も講じなくてはならない。しかし、吐き気がほとんどないタキサンに必要もないのにセトロンを使って、しかも便秘対策も不十分と、これでは、「今、あなたが受けている治療は不適切である」と言わざるを得ない。他にもハーセプチンとジェムザールの併用、など、治療自体に疑問を感じるような場合があり、ああいった中途半端な患者会議では、どういう風にふるまえばいいのだろうか、難しい選択である。
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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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