大衆迎合行政


先日、ある新聞社が「抗がん剤が高すぎる」ことをどう思うか?」 ということで取材にきた。取材者いわく「分子標的薬剤の医療費が高すぎて支払えない患者がいるので、厚労省は高額療養費の見直しを検討すると言っているが、どう思うか?」と。私はこの問題についてはちょっとうるさいのだ。そもそも、高い安いの基準は何なのか。いい薬なら多少高くっても頑張って支払うのが筋だし、へぼい薬ならいくら安くても誰も使わない。つまり、「これぐらいの価値があれば使おう」という値ごろ感が消費者の間で定着しているかどうか、ということである。高級車vs.大衆車、高性能冷蔵庫vs.普及型冷蔵庫など、多くの商品について、消費者には、いいものは高くてもしかたない、という、値ごろ感を持っている。これと同じように、いい薬ならば、高いのは当たり前であろう。しかし問題は、がん治療薬には、「命にかかわる」という性格があるので、車や、冷蔵庫などとはちょっとわけが違う。し、かし、単に高いからといって大衆迎合的に高額療養費の基準をいたずらに下げるのではなく、いい薬、いい医療にはお金がかかるものだ、という認識を広める努力も必要ではないだろうか。

もうひとつ、薬価の決定にはいくつかの問題がある。薬価を決定する場合に、新薬では開発に要した経費を積算する「原価積算方式」を用いる。治験にかかる費用などが合計されるわけだ。最近、治験はやたらとお金がかかる。提出書類が膨大で、モニターも不必要な施設訪問を繰り返し「過剰品質」として問題になっている。治験をもっとあっさり素早く実施すれば、ドラッグラグも高額医療もすべて解決するだろう。さらに治験契約費が施設ごとにばらばらで、とりわけお高いのがKRM大学だそうで、他病院の3-5倍の「ポイント」を要求してくるそうだ。治験の質、医師の質が高いというわけではなく、むしろべらぼうに低いのになぜこんな矛盾が起きるのか、取材してみたら、と取材者に助言してみた。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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