今日(三日目)と昨日(二日目)のお昼にサンアントニオの目玉セッションである「Case Conference」がありました。壇上のパネリストは、会場から質問に、事前の準備なく、ぶっつけ本番で答えるこのセッションは、臨床医の真の実力が問われるもので、10年以上の間、必ず参加しています。今回、改めて関心したことは、パネリストは今回の学会で発表された話題などにもきちんと精通していて、情報処理能力の高さもすごいと感じました。例年の如く、会場では12時30分の開始を待ち切れず、マイクの前に長い列ができました。順番に、「64歳女性で6年前に左乳癌手術し、・・・再発後の治療は、どうしたらいいか?」と症例を提示して、それにパネリストが答えるのですが、提示される症例はどれも、うーんと唸ってしまうような、一筋縄ではいかない難しく、しかも答えは一つではないようなものばかりです。去年は清水千佳子先生も質問しましたが、今年は会場に姿は見かけませんでした。継続は力なりと教えたはずなのに。今回、おっと思ったもう一つのこと、それは、質問者が症例提示する時に、ERは45(ER was forty five・・)、、PRは50、HER2FISH 1.1、という表現を使っていることです。St.Gallen 2009で、ER、PgRは、陽性細胞割合を%で表示するのがよい、とリコメンドしているのですが、日本では未だにSRLなどのレポートでも10%以上、という表現しかなく、St.Gallenのリコメンドが全く生かされていないのに比べ、こちらでは、community oncologistsのレベルでも、「正しい」表現方法が定着しているわけです。また、HER2 FISHのコピー数で表現するのもいいことだと思います。内容が正しく伝わりますから。陽性、陰性というだけではだめなのです。また、ER1%でどうするか、という質問もありました。もうひとつ、立派だなと思ったことは、パネリストが質問に答える際に、ASCOのガイドラインでは・・・など、公的なガイドラインを重視する立場を一貫して取っていることです。日本ではどうでしょう? 「ガイドラインにはそう書いてありますが、うちの病院の方針は違います。」とオピニオンリーダーを自他ともに認識する外科医ですら、そんなことを言います。また、エビデンスがなければやりません、という話も、ここでは全くでません。このカンファレンスに提示する症例は、ガイドラインで推奨される治療が適用できれば苦労はしないよ、というものばかり。つまり、エビデンスが存在しないような、応用問題ばかりなのです。だから、パネリストは、This is very tough case(これはとても難しい症例ですね)としばしば口にしますが、答えは、「ランダマイズドエビデンスはない。しかし、個人的には、これこれ、の治療をするだろう。」というように、必ず、解決策(Strategy)を提示します。それが、また、なるほどね、さすがね、というようなことが今年は多かったです。44歳、右乳癌4cm。ER100%、PR100% 、HER2FISH 0.7、grade 1、Ki67 6%、術前ホルモンはどうでしょうか、という質問。日本のガイドラインでも閉経前の術前治療の推奨レベルは、C2としているのですが、パネリストはなんて答えたでしょうか。MayoのJim Ingleは、「われわれは、若い乳癌患者に対する研究を必ずしも十分にはしてこなかった。」とまず言いました。これは、十分なエビデンスがない、ということと同じことを、当事者としての視点で表現しているのです。これには関心しました。しかし、個人的には、閉経後と同じように、ホルモン療法をまずやるのがいいと思う。具体的には、LHRHアゴニストプラスタモキシフェンを選びますね、と答えました。好感が持てます。また、ロンドンのスティーブジョンソンは、This tumour tells you that I am Luminal A.(腫瘍が、自分はルミナルAだと言っているよ)と、これもまた、いい姿勢だと思いました。一方、質問者もいい事を言いました。「おとといのポスターでジャパニーズグループがLHRHアゴニストプラスアナストロゾ-ルのほうが、タモキシフェンとのコンビネーションよりも優れているという発表があったがどうだろうか?」 なんと、相良のやっちゃんの発表が、こんな風に役立っているではありませんか。パネリストは、「I know, that’s an excellent data.」といって、相良のやっちゃんの発表を賛美し、「骨粗鬆症や肥満の問題がなく、CYP2D6変異が懸念される状況などあれば、それも選択肢として考えてもいいのではないか」と、激しく頷けるような意見を述べたのです。これぞまさしく、わが乳癌学会のガイドラインが推奨レベルC2としている「科学的根拠は十分とはいえず,実践することは基本的に勧められない」といことの具体的な表現だと思います。相良のやっちゃん には、是非、これらの問題を合わせて解析し、自分で論文を書いてJCOぐらいには投稿してもらいたいものです。こんな感じで、このセッションが終わると、今年もお正月を迎えられるという感じになります。聖マリアンナの津川先生が「中外の会に途中まで出てたけど、こっちに来てすごくよかったです。センチネルノのことも、生の意見を聞けたし、このセッションを聞かない手はないですよね。」と高揚した声で言っていました。「そうでしょ。若い人には是非参加したらと、毎年言っているのですけどね、なかなか、日本人の参加者は少ないみたいですね。」と、悲しさのあまり涙を流しながら中空を見つめて答えました。「そりゃあ、いかんですね、大学でもこういうようなことをやっていて、なんでもいいから話しなさいってやってるんですよ。今日のも、すごく参考になったなあ。」と。津川先生の目には輝く星が見えました。私の涙の原因は他にもあるのです。中外製薬株式会社は、学会が開催されているこの時間帯に「日本人のための勉強会付きお食事会」を開くという、医療に貢献すべき製薬企業としてはあってはならない、なんと愚かなことをするのでしょうか。お食事だけではないですよ、という反論がありましたが、もし、私が学会を主催する立場だったら、会期中に裏番組をやるような企業は出入り禁止にするでしょう。今まで、読む人にわからないように虫害としていましたが、今回ばかりは、「そんな甘い対応ではいけない」とのIDMCの忠告に従い、ご意見申し上げました。学会を大切にする姿勢がなくてはいけません。さて、明日は日曜日で最後のセッション「THE YEAR REVIEW」があります。これは昨年から始まったのですが、基礎医学、翻訳医学、早期乳癌、進行乳癌、の四つの領域で、今年一年の成果を専門家がレビューします。これも乳癌診療全体に触れておくためにはとても大切なセッションだと思います。
リアルタイムに勉強になります。
ところで、小倉先生一派は、目玉に参加していましたか?虫害ですか?
また、15日の検討会の時のお話を楽しみにしております。
とても残念ですが、誰一人参加していなかった様子です。子は親の背中をみて育つといいますが、親があれではどうしようもないですね、とほほのほ。
楽しく拝読させて頂いております。先日、コメントで取り上げて頂きました製薬会社のものです。
最新情報が知れて勉強になります、ありがとうございます。
今回も、先生のブログを読んで、衝動が抑えられずコメント書かせて頂いております。
学会。どうも日本の先生方は集団で行動させれことが多いと感じております。
海外の先生は、どんなに偉い方、逆に偉い方ほど、御一人で行動され学会の発表を
可能な限りくまなく聞かれているように感じます。
思いましたことは、製薬会社が夜などに実施するセッションについては、
反省すべきと思います。
高血圧など同じような薬剤が沢山ある領域なら別ですが(それでも学会は大切ですが)、
癌領域は比較にならないくらい最新データが重要な領域だと思っているのですが。
すいません、偉そうなことを書いてしまいました。
今後も色々と学ばせて下さい。
かしこ
Case Conferenceには参加しましたよ~。
学会場ではほぼ個人行動でした。
最初、モニタ画面があるので、何か表示されるのかと思い、端っこに座ってしまいました。
パネリストの先生方もすごいですが、司会の話の振り方も見事でしたね。
初参加の国際学会ですが
会場はひろいですね。
学会場ではほぼ個人行動でした。
WATANABE先生の後ろ姿を何回か拝見しましたよ。
独り立ちし始めていますよ。
暖かく見守ってやって下さい。