医師の本分


医師は患者を診るのが仕事である。臨床力「Clinical Expertise」とは、知恵と知識と経験とたゆまぬ努力によって熟成される能力で、それには、診断力、治療力、コミュニケーション力、洞察力、情報処理力、忍耐力、判断力、指導力など、様々な成分が含まれる。臨床力は、一朝一夕に身につくものではないが、単に長期間、臨床に携わっていればよいというものではない。患者を診ることと、患者を対象とした臨床研究を行うことは車の両輪、コインの裏表と言うような感じで、両方の能力と活動を併せ持っていくのが望ましいかな、と常々思っている。先日、メディアセミナーで大野善三さんから、「渡辺先生は、立場が変わる度に、新しい問題点を見出して取り組んでいますね。先生の話が面白いのは、常に、現場を持っていることなんだなと思いますね。」と言われた、大野さんは、医学ジャーナリスト協会の重鎮で、NHKにいらっしゃった1990年代前半から取材を受けたり、メディアセミナーで講演を聞いてもらったりと、年に数回だがお目にかかる機会がある。西條先生とはしばらくご無沙汰していたが、先日、日経新聞の座談会でお目にかかった、「いかがですか、先生」と聞いたら、「暇や、暇やから、勉強ばっかりしとる。」と。確かに、分子標的薬剤の最新情報の詳細まで、よくご存じだが、今一つ、話に迫力がない。ご本人もおっしゃっていたが「知識は吸収できるが、現場に携わっていないから、頭でっかちや。」ということだ。昨日、引退牧師と話をする機会があった。彼は、信州の方の教会で長年、牧師をしており、その時に入院、手術を経験した。内科医として担当したのが、有名な○田實先生だという。手術前に、「頑張ってください」、といわれたそうだが、牧師先生は、「私は、全身麻酔をかけられて、いわば、冷凍マグロのようなもの。何を頑張れというのですか?」と思わず聞いてしまったそうだ。また、「彼は、最近、有名医になって、頑張らない人生、なんて言っているが、冷凍マグロの私に頑張ってくれ、といった同じ人間とは思えないな。」と。また、面白いことをおっしゃった。「有名医だけど、彼は全然、名医じゃあないよ。名医になってから有名医になるのが筋だけど、先に有名医になっちゃったものだから、講演とかで忙しくて、名医になりきれないんだな。」 これは、まさに、他山の石とすべき指摘である。この1カ月ぐらいで出あった、大野さんも西條先生も引退牧師先生も、人生の先達は、大切なところをきちんと評価しているな、と感心した。やはり、本分をわきまえ、それに情熱を持って取り組むこと、まさに、MISSIONを心得て! PASSIONをもって臨み、HIGH TENSIONで取り組むことが大事であると理解した。本分をないがしろにしては足元すくわれるぞ、ということは常に、あんきもに銘じておくよ。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

“医師の本分” への 4 件のフィードバック

  1. 渡辺先生さま

    初めて拝見しました。是非先生のコメントが頂きたくメールしました。外来に勤務している看護師です。最近40~50歳台乳がんのStage1(Grade3、ホルモン感受性陽性)の患者様で乳がん部分切除後、放射線治療+化学療法をすすめられとても困惑されていることが度々見受けられます。脱毛や吐き気(特に脱毛)などの副作用が命と同じくらい重要だという患者様が多く治療の意思決定に困難をきたしています。「看護師さんが私の立場だったら受けますか?」と質問され正直とまどいました。個人によって価値観の違いにも改めて気づかされる毎日です。いづれの選択においても患者様の意思が尊重されるべきだとは思うのですが医師はそういう時は「私なら絶対治療します」と言わないといけないと指導されました。どれくらい再発リスクは軽減できるのでしょうか?手術や放射線治療は受けても抗がん剤は嫌だという方が多いです。
    よろしくお願いします。

    1. 患者の意志を尊重することは大切ですが、間違った情報に基づいて形成された意志はそのまま尊重することは危険でしょう。まず、化学療法がなぜ必要か、を正しく説明することです。stage Iであっても、抗がん剤が必要な場合があります。まず、手術とホルモン療法だけの場合と、それに抗がん剤を加えた場合の再発のリスクの違い、副作用を考えてください。手術とホルモン療法だけの場合、10年以内に再発するリスクはどれぐらいでしょうか? それに抗がん剤治療を加えた場合、そのリスクはどれぐらい、抑制できるでしょうか? まず、これについて、あなたはどれぐらいと認識しているか、お答えください。

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