HER2-豊穣乳癌の術前、術後、再発後、いずれの状況でも週1回、または3週1回投与のすべてが承認され、日高さんの言うところの「きれいな添付文書」となったことは喜ばしいかぎりである。こうなったからくりは行政お得意のガス抜き超法規的3段飛び論法である。今回は「公知申請承認」という形の超法規的ウルトラCが使われた。公知申請(こうちしんせい)とは、適応外処方について科学的根拠に基づいて医学薬学上公知であると認められる場合に、臨床試験の全部又は一部を新たに実施することなく効能又は効果等の承認が可能となる制度である。外国において承認されていて、使用実績があるとか、一流論文に試験結果が出ているとか、日本でもその使い方で臨床研究を始めたいグループがいるとか、ちょっとやって形だけ整えたとか言う場合に公知申請ができる。公知申請が受理された適応外薬については、適応外だけど保険適応OKということになる。
あるMRくんが、「これで先生方もハーセプチン、術前治療、今までみたいにこそこそやらなくても、大手をふって使用できますから」というので、「別に今までだってどうどうと使っていたジャン」というようなやりとりがあるぐらい、何が違うわけ、どこが変わったわけというのが正直な感想である。ただ、行政的に形をつけたということなのだ。
この不可解な状況は、ハーセプチンが最初に承認されたときに、それまで、外科社会で使っていた「進行再発乳がん」という用語をあえて、内科社会の用語である「転移性乳がん」を使って適応承認したところに端を発するわけである。もし、あのとき、我々内科が変に頑張らないで、進行再発乳がんで、ハーセプチンの適応をとっていれば、その中に進行乳がんとして術前治療も当たり前の古都として実施でき、こんなややこしい公知申請の枠組みで承認を待つことはなかったのだ。進行再発乳がんという外科言葉は、手術のできない乳がんというテクニカルスタンドポイントオブビューに立った、如何にも外科的な用語で、私たちはそれを嫌っていた。それであえてメタスタティックブレストキャンサーを転移性乳がんと訳してバイオロジカルスタンドポイントオブビューにたった用語をハーセプチンの最初の適応疾患として無理やり押し込んだ、という経緯がある。その後、転移性ということばはおかしい、おかしいという、化石のような外科医もいたので、確かにおかしいかも、という話になって、最近では転移乳がんというふうに用語統一をする、という話になった。
それはおいといて、公知申請というのは、「つまり、公知 みんな知っていることジャン、海外ではばんばんつかっているじゃん、なんで日本で使えないの?」というやつを、「では、特別に認めてあげよう、特別だよ、特別だからね、臨床試験なしで認めてあげるんだからね、気をつけてね」というものである。
「なんに気をつけるわけ? 効果もあって、安全性も確認されているわけでしょ? じゃあ、ふつうの承認と同じジャン」ということで、本質的に特段、気をつけることなどなにもないのだ。ふつうに、他の薬剤に払う注意と同じように注意すればよい。しかし、なんか、行政の対応を見ていると認めたという責任を回避しているように感じるなあ。。それじゃあまるで東京電力問題や、生肉ユッケ問題とおんなじではないでしょうか? このタマムシ色、二枚舌的行政対応が我が国の様々な問題の根底にあるのではないか。HER2豊穣乳がんにはどんな状況でもハーセプチンは使用すべきであろうし、また、カルボプラチンも、同様に、公知申請が承認されたのであるから、エビデンスがある使い方を確かめて患者さんにベネフィットをもたらすような使い方を積極的に導入していきたいものだ。
MR君に聞いたところ「先生方に使ってもらってもいいんですが、お前ら、宣伝はしてはいかんとか言われているんですよ、情報提供活動もやっていいいだか、いけないんだか、わけわからないっすよね。」と。確かにそのとおりだ。行政は、行政なりに筋を通したつもりだが、そんな屁理屈は、世の中には通用しないということを、小役人は分かっていない。東京電力問題や生肉ユッケビビンバ問題と同様の火種は日本全国、あちこち、あらゆる問題でくすぶっているのだ。
前略、群馬がんセンターの藤澤です。先生のご指摘されたハーセプチン、確かにその通りだと思います。「何を今更」と。只、今回考えるのはCBDCAの扱いです。思うに乳癌領域でCBDCAが必要なのはTNと思いますが(アベンティス社のPPIがボシャってからは然程思わないのもありますが)、BCIRG006のTCHでしか通らないというのはどういう事でしょう?せめて単剤でも使えるようにしてもらいたいと思うのですが。