分子標的薬剤、ホルモン剤など、非・細胞毒性薬剤が各領域で台頭してきた。でも、細胞読師絵抗がん剤(ケモ)が役立つ場合もまだまだある、という移行期を迎えているのは間違えない。乳癌ではタモキシフェンの登場により1980年代にホルモン療法が普及した。しかし、タモキシフェンは閉経後しか効かない、閉経前には効かない、というような誤解が当初あった。そのため、ホルモン療法は、若い人にはあまりきかない、とか、若年者にはケモが必須、という誤解が今でもはびこっている。ザンクトガレン2009からは、リスク評価から年令という因子が外されたにも関わらず、いまだに若い人にはケモ、という「超専門家」もいる。ザンクトガレンカンファレンスの歴史は、「ケモをしなくていいひとを見付けて無駄なケモはしないようにしよう」というのが重要なコンセプトとして底流を流れている。今回、Luminal Aには、よっぽどのことがない限り、ケモはしない、ホルモンだけでいい、というコンセンサスが得られ、ひとまず、上記の底流の完成型をみたのだ。先日の大阪での講演会、地元の中堅の精鋭が壇上に上がり、ケースカンファレンスを展開した。しかし、驚いたことに名だたる施設の中堅医師たちが、Luminal A 閉経後、腋窩転移1個症例に、ケモをやるという。その心は、1%でも2%でも再発が抑制できるのならケモを勧める、というのだ。確かにLuminalAだけを対象に、ケモ対 ケモなしの比較は行われていない。しかし、ER陽性、閉経後では、Luminal A・Bひっくるめた形での検討はたくさんやられていて、ケモの上乗せ効果は、限られている、ことがしめされており、Luminal A的なキャラクターを持った症例では、やはりケモのベネフィットは極めて乏しく、この1%、2%というのも根拠のない話だと思う。思わず、壇上の若手たちに、「では、先生たちは、ハルステッド手術をやりますか」と聞いてしまった。かつては確かに標準とされていた治療が、その後の知恵の蓄積で、もはや過去の遺物となっている例はいくらでもある。Luminal Aに対するケモも同じような認識で考えるべきではないか。反論として、2007年まではリンパ節転移が1個あればケモするのが標準だったのに、それが、急にケモ不要といわれても・・・というもの。確かにガイドラインでもそう書いてあるが、それは、知恵が蓄積する前の話しで、既に知恵が蓄積した今、昔の知恵で患者を苦しめてどうする? 菰池先生、ご意見どうでしょう?
渡辺先生、すみません。名だたる施設?の中堅医師のひとりの菰池です。このように発言の場を与えていただきありがとうございます。講演会の翌日は臨戦態勢を整えていたのですが、翌々日以降、先生のブログをチェックできず、レスポンスが遅くなりすみません。
冒頭の「すみません」の意味は後程述べますが、私今回のSt. Gallenの先生のご講演を拝聴し、半分が新鮮で目からうろこの思いであり、半分が驚きでした。驚きの部分ですが、『Luminal A(以下LA)』に対してリンパ節転移の個数によらず化学療法の選択肢がなくなった(4個以上は一応少し考えてみるとのことでしたが)ということです。これは、先生には申し訳ありませんが、『そこまで言い切っていいのだろうか?』という驚きです。誰もが化学療法の効果(survival benefit)に疑問を感じつつ、そこが知りたいところでもありますから、思わず拍手したかったのですが、私の理解は『LAに対しては化学療法の効果が弱いがゼロではない』です。先生が言われたように、LAだけを対象に、ケモ対ケモなしの比較は行われていません。ER陽性、閉経後では、LA・Bひっくるめた形での検討はたくさんやられていて、ケモの効果は限られていることにも異論はありません。ただ、私は過去の化学療法の有効性を示した多くの臨床試験の症例のおそらく半分あるいは6割くらいはLAが含まれていて、survival benefitが明らかであり、それはn(+)でより顕著であるということから、効果は弱いがbenefitが得られる人はいると思っています。化学療法を否定する根拠は術前化学療法でpCRが得られにくいという事実と、質の高いランダム化比較試験の症例における後ろ向きサブ解析の結果からだと思うのですが、pCRが得られにくいことと補助療法においてsurvival benefitが得られないということは違いますし、後ろ向き解析の結果をそのまま真実にはしにくいと思います。化学療法の効果が弱いことは、これら傍証からほぼ確実といってもいいと思いますが、効果がないといえる根拠がないのではないでしょうか?(少なくとも今のIHCでのER、PgR、HER2、Ki67で分ける限りにおいては)。LAにおける化学療法の意義を目的としているわけではありませんが、MINDACTにしてもTAILORxにしてもリンパ節転移陰性症例での化学療法を省略できる症例を見極める試験ですし、NEOS試験にしても、どのような症例で化学療法を省略できるかを検証しようとしているのであって、これらの臨床試験がまだon goingの状況で、『LAに対して化学療法は要りません』というのは検証すべき仮説であって、それがいきなりrecommendationとなっていたことが私の半分の驚きであり、感想です。先生の言われるように『LA的なキャラクターを持った症例では、ケモのベネフィットは極めて乏しく、この1%、2%というのも根拠のない話だと思う』のは極めて以外はそう思いますが、私はむしろ1%、2%よりあるかもしれないとさえ思っています。そんなのLAじゃなくてLBじゃんという声が聞こえるようですが。さらにいえば、正確にケモ不要症例を選別できないとすれば、1%はともかく2%のベネフィットなら考えます。それが真実であるならば。当然1%、2%のベネフィットでもやりますと考える患者さんがいるからです。98%、99%の患者さんへのharmのほうが大きいと先生は考えられるかもしれませんが、100人に1-2人の乳癌の患者さんを救うことは重要ではありませんか?ハルステッドの傷や痛みは消えませんが、私には断言できませんが、化学療法の有害事象はほぼ一過性ではありませんか?(妊孕性の消失は問題かもしれませんし、アンスラ治療後30年の心不全のデータもこの前別の研究会で教えていただきましたが、私が今実感している補助化学療法後の問題となっている有害事象はタキサンの末梢神経障害のおひとりだけです。実はNSASBC02症例ですが。なので、やっぱり不要な化学療法はハルステッドと同じかもしれませんけれども。)ということで、現時点での解釈は、『LAに対しては化学療法を省略してもいいよ』であって、『LAに対して化学療法はあり得ない』ではないのですが、間違っているでしょうか?そもそもevidenceにしてもconsensusにしても、あまり窮屈であってほしくないのですけれど。私も閉経後LA、n1個の症例にケモしなければいけないといっているわけではありません。
ここで冒頭の「すみません」の意味についてですが、『2007年まではリンパ節転移が1個あればケモするのが標準だったのに、それが、急にケモ不要といわれても・・』は私が間違っていました。昔の知恵で患者を苦しめてはいけませんよね、渡辺先生。なので、そういう理由で先生がこのブログを書かれたのであれば、素直に謝ります。正しいと思うことは、さっきまで右といっていても、臆面もなく左と言いますよ、私は。
長くなりますが、半分の新鮮さは、リスクが高くても効果のない治療は基本的にしないという一貫した考えです。再発リスクが高いからという理由でやれケモだ、やれ何とかだと節操なくやる時代はいよいよおしまいですね。やはり効くべき対象に効くべき治療をすべきでしょう。過去10年以上前から先生のご講演の中で印象深かったことが二つあって、癌性リンパ管症の若いお母さんが、子供さんの入園式にでることを目標に受診即入院weekly PTXで目標を達したお話と、St.Gallen関連で、これまで若いという理由だけで不要なケモを行い疑問に感じていたことが、前回の会議からようやくそのようなことがなくなったと嬉しそうに語った先生の姿なのですが、本当の意味でケモが意味のないLAが見極められると良いですね。大変長くなってしまいすみませんでした。