Iniparibの悲劇


ある勉強会で、「ASCOのトピックスを話しますけど、どの話題がいいですか?」と尋ねたところ、「PARP阻害剤の話は、あちこで聞いたので他の話をしてください。negative dataだし、おもしろくないから。」と言われた。Iniparibの試験は確かに、negative dataということになっているけど、なぜ、そうなったのか、本当にnegative dataなんだろうか、なにか、カラクリがあるのではないだろうか、だって、2009年のASCOで、今回と同じ、ジョイス・オショーネッシーが発表した、第II相試験の結果は、あれほど、インパクトがあり、それゆえに、NEJMにも今年の初めに掲載されたし、今回、発表された第III 試験があっという間に症例集積が進んだわけ、そのあたりのカラクリを「もういい。」と言った人たちがどのように理解しているか、を聞いてみたかったので、簡単に話しましょう、と言って話した。私の理解では、まず、①試験計画、試験実施、結果解析において、統計的考慮があまりに厳密すぎ、臨床的なあいまいさを排除しすぎた点、②第II相試験のインパクトがあまりに大きく、Iniparibはいい薬に違いない、ということから、倫理的配慮ということで、対照群でPDになった場合、クロスオーバーを許容せざるを得なかったたこと、そして実際、96%の症例がクロスオーバーしており、そのため、OSでの差が希釈されてしまった点、③統計学的考慮が厳密であった割には、抜けていたところがあり、我々が1998年のJCOで発表した再発乳がんの予後因子として重要であるDisease Free Interval(手術から再発までの期間)を層別化因子にしていなかったため、これが両群間で大きく偏った(化学療法単独群に有利に働いた)ことからOSの差がはっきりと表れなかった点、などがあげられる。また、PFSとOSを共に主たる評価項目としαエラーを、OSに0.04、PFSに0.01と振り分けたため、ふつうなら、PFSで有意差ありと判定されるような結果(P=0.02)が、有意差なしという判定になったことも、統計学的厳密さによる、何となくわかりにくい結果である。Iniparib Negative Dataをいろいろと考えていくと、そもそも、第II相試験はいったいなんだったんだろうか、というところに話が行きつく。一言で言えば、中途半端なサイズのランダマイズドフェーズII試験は、間違いのもと、第I相試験で安全が確認され、手ごろな投与量が見つかったら、一気に、第III相試験にもっていき、下手にクロスオーバーなどは許容しないこと、そうしないとOSでは絶対に差はでないだろうし、そうなるとFDAの不機嫌そうなおばちゃんは認めてくれないだろう。今回のデータで、Iniparibはどのような方法で失地回復がなされるか、見ものである、という話をしたところ、聞きあきた、と言っていた人たちが、「えー! そう言うことだったのですか! 先週聞いた話では、Iniparibは、セカンドラインで効く薬、という説明だったけど違うんでしょうか?」と言うレスポンスだった。その解釈も、臨床試験学を理解していない浅はかな解釈であることを丁寧に説明しておいた。臨床試験学を習得し、EBMを実践できていないと、なかなか、理解できない問題である。また、あまりにお作法にとらわれすぎたサノフィ・アベンティスだが、フランス的いい加減さで、どのような次の一手が打たれるか、注目していこう。

広告

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中