朝日新聞の連載記事です。これを送ったら担当編集者の方から、大丈夫ですか? との御心配を頂きましたが、大丈夫もなにも、効果もないものが、危険性をはらみながらいつまでも中途半端な形で世の中に出回ることが問題だと思っています。同様のことは、丸山ワクチンにも言えます。明確な効果もないまま30年近く、いつまでも消滅しないのは、いくらなんでもおかしい話です。
朝日新聞静岡版 7月8日掲載記事 「アガリクスには気をつけろ」
治療が終了してひと段落すると、知人や友人などからさまざまな「サプリメント」とか「健康食品」を、がんにいいから、と言って勧められることがあります。なかには、とんでもない高価格をふっかけてくる悪徳業者もいると聞きます。サプリメントとは、栄養補助食品という意味で、ビタミン、ミネラルなどの栄養が不足している場合には必要かも知れませんが、バランスの良い食事を摂っていれば、補う必要はありませんし、とりわけがんにいい、というサプリメントはありません。胃がんの手術後に、鉄やビタミンB12が不足することがあるので、その場合は、定期的に注射で補う必要があります。
また、健康食品の中には、むしろ体に害悪があり、健康を損なうものが紛れ込んでいることがあります。私は、これらを不健康食品と呼んでいます。その代表選手がアガリクスです。アガリクスは、ひめまつたけとも呼ばれ、一時、がんに効くともてはやされ、健康食品として薬店などでも売られていました。アガリクスには、とても悲しい思い出があります。10年近く前、私が国立がんセンター中央病院に勤務していたころ、アガリクスを飲んでいた3名のがん患者がたて続けに劇症肝炎で死亡したのです。アガリクスによる肝障害は、その後も他の病院からも報告されています。それ以来、軽度といえども肝障害が認められた患者さんには、アガリクスを飲んでいませんか、と聞くようにしています。厚生労働省では、この問題について検討し、国が定めた安全性や有効性に関する基準を満たした場合は「保健機能食品」と分類するようになりました。しかし、わらにもすがりたい患者の気持ちに漬け込み、今でも、ある種のキノコ、海藻からの抽出物でがんが消えた、というようなうその宣伝を見かけることがあります。効果もなく、危険をはらんでいる可能性もあるわけですから、健康食品というあいまいな分類のものには手を出さないようにするべきでしょう。