転移は手術するべきか? (2)


大腸がんの手術後、数年たってから肺に転移が見つかり、原発病巣には再発はなく、また、肝臓など、他の臓器にも転移のない患者の治療について、腫瘍内科医と外科医との間で、意見が分かれます。外科医は肺転移を手術で取るべきだ、と主張します。その根拠は、「今までの治療経験によると、大腸がん手術から肺転移診断が診断されるまでの期間が長い患者、あるいは、肺転移が少なく技術的に切除可能な患者では、切除後の生存期間が明らかに長いので切除する方がいい」というガイドラインなどの記載です。しかし、腫瘍内科医は、肺転移を切除するよりも、全身的に効果の及ぶ薬物療法が必要であると反論します。それは目に見えない微小転移の存在を考えているからです。
大腸がん手術から肺転移までの期間が長いという患者は、もともと、がん自体の増殖が遅く、肺転移後の寿命も長いようなタイプの大腸がんである可能性があります。また、今までの治療経験で、肺転移が少なく技術的に切除可能な患者とは、つまり、転移病巣が小さい患者が選ばれて手術されたという可能性があります。逆に、肺転移が大きい、数が多いなどの理由で、技術的に手術ができない、あるいは、高齢であるとか、心臓や肺の働きが悪いような患者では、手術自体の危険があるので、手術を行わなかったという可能性もあります。すなわち、過去の経験では、がんの性格がおとなしいような患者、あるいは元気の良さそうな患者だけを選んで手術をした結果、「手術をする方がよい」という結論に至った可能性が十分にあります。手術がよかったという話ではないのかも知れません。ただ、胸腔鏡など、体に負担の少ない方法で手術が出来るのならば、手術の害悪、危険はほとんどないと考えられるので、手術をしても悪くはないでしょう。しかし、大腸がんに対する薬物療法が進歩してくれば、乳がん同様、肺転移を手術で切除するという選択肢は消えていくでしょう。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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