朝日新聞連載 38回


最善努力の原則
食道がん、喉頭がんで亡くなった落語家、立川談志を偲ぶ報道で、食道がん術後の記者会見映像が流れました。驚いたことに本人は威勢よくタバコを吸い、同席した執刀した外科医が記者からタバコについて問われると「本人の希望ですから。今からタバコやめてもなってしまった食道がんは治りませんしね」と答えていました。本人の行動はともかく、私はこの医師の発言はどうも納得がいきません。
喫煙は、肺がんだけでなく、食道がん、喉頭がんの原因です。食道がんが手術で切除されても、食道の別の部位に新しくがんができることもありますし、また喫煙を続ければ喉頭がんの発症につながる可能性もあります。喉頭全摘術となったら声を失いますから、落語家にとっては重大な問題です。そこまでの情報を十分に提供し、本人が正しく理解し、それでも喫煙を続けるなら、本人の選択として尊重しなくてはなりません。しかし、記者会見の場で医師は、タバコはやめるべきです、と発言しなくてはいけなかったと思います。確かに、タバコをやめたら、食道がん、喉頭がんに絶対にならないとは言えませんが、ならないよう可能な限り努力するという姿勢が大切だと思います。
同様のことは術後の抗がん剤治療についても言えます。目には見えない微小転移があるかも知れず、それを撲滅するため半年間、抗がん剤治療をするという状況ですが、微小転移はないかも知れない、また、抗がん剤治療をしたとしても再発を100%抑えるということは約束はできないのなら、つらい抗がん剤治療は受けたくない、という選択肢もあります。しかし、後で再発を心配し、あの時、抗がん剤治療を受けておけばよかった、としきりと悔やむ人がいます。何事も絶対大丈夫、ということはありません。しかし、できる時に、できることをやっておくことが後になって、自信と安心につながるということもありますので、私は、常に、最善努力の法則に基づいてを患者さんにはお話ししています。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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