朝日新聞静岡版連載も1年をこえ、今年の6月まで続けてほしいとの依頼が編集者からありました。支局長は、書籍出版も考えているんで、そこのところよろしくとのことでした。
今回から、しばらく、臨床試験ネタをと思い、まず、樹状細胞療法の話をとりあえげたのですが、いまいち、わかりにくいようです (-_-;)。
効果を調べるための比較試験
樹状細胞療法のニュースを見た患者さんから、あの治療を受けたい、という申し出がありました。樹状細胞療法とは、がん免疫療法の一つで、2010年、米国で前立腺がんの治療として、免疫療法としては世界で最初に認可された治療法です。これは、まず、患者の血液から単球という細胞を取り出し試験管内で培養し、樹状細胞を大量につくり、前立腺タンパクの一部分を加工したものと混ぜ、樹状細胞に認識させます。ちょうど、警察犬に犯人の匂いを覚えさせるようなものです。そして、樹状細胞を再び患者に点滴すると、こいつが犯人だ、捕まえろ、と他の免疫細胞に教え、前立腺がんをやっつけるという仕組みです。米国の臨床試験では、樹状細胞療法の結果、寿命(生存期間)が4か月延びたという結果でした。
新しい治療の効果を検討するにはランダム化比較試験を行わなくてはいけません。前立腺がんの樹状細胞療法も、512人の患者を対象にランダム化比較試験がおこなわれました。試験に参加した患者は自分の意思とは無関係に、樹状細胞に前立腺タンパクを反応させたグループ341人と、樹状細胞に前立腺タンパクを反応させないグループ171人のいずれかに分けられ、効果を調べました。つまり、171人は、にせの治療を受けた、ということになります。このようなやり方は、倫理的に許されるものでしょうか? 答えは、「許される」のです。なぜかというと、試験をするということは、効果の有無を検討している段階なので、樹状細胞に前立腺タンパクを反応させても、それが効くか、効かないか、誰も知らないのです。この試験で初めて、4か月の延命効果が確認できたのです。番組は、日本でもいろいろながんの免疫療法臨床試験が始まったことを話題としたもので、あの治療を受けたいという患者さんには、「条件があえば、是非、試験に参加してください」、とお話ししますが、それが良い治療であるからではなく、効果の有無を調べるために協力してください、ということなのです。
私には、結構分かりやすいと思いました。