臨床試験に必要な利他のこころ (朝日新聞連載)


新しいがん治療の臨床試験が開始され、数年後の診療への導入を目指して研究が進められます、という内容の新聞記事を目にすることは多いと思います。身内がそのがんにかかっている場合など、その治療をすぐにでも受けさせたい思う方もいるでしょう。しかし、記事をちゃんと読めば、効果があるかないかを調べる試験が始まったばかりと書いてあります。このような試験を進めるには、患者さんが被験者となり、試験に参加してくれることが不可欠です。今までに受けた治療の内容、現在の病状などについて、決められた条件に合えば、被験者として試験に参加することはできます。その結果、新しい治療の副作用や効果についてのデータ収集に協力でき、将来の患者に対してよい治療を残す、つまりボランティアとして協力するということです。しかし、必ずしも良い治療を受けられるわけではないというのは先週、お話しした通りです。ですから、がんに限らず、新しい治療が出来上がるには、他人のために行動する精神、つまり利他のこころが私たちに求められるのです。数年前、癌治療学会で「日本人は欧米人に比べ、ボランティア精神が乏しいので、臨床試験には向かない国民性だ」という的外れな意見を正々堂々と主張する医師もいました。しかし、国際化時代の昨今、さすがに、そんなことは言っていられないはずですが、実態はどうでしょうか。
製薬企業が、新しく薬として製造する、あるいは海外から輸入するため、その安全性、有効性を調べるために行う臨床試験を「治験」と呼びます。治験の結果、厚生労働大臣が認めれば、新薬として使用できるようになります。日本は、治験に関してもいまだに後進国で、大部分の抗がん剤は、欧米諸国で治験が行われ承認されてから、日本で小規模な治験を繰り返し、欧米諸国に遅れること数年で、やっと日本でも使えるという状況なのです。海外の治験にただ乗りしていると言われても反論できません。日本人はそんなに利他のこころが乏しいのでしょうか。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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