臨床試験のためのチームづくり
テガフール・ウラシル配合薬は、一九九〇年代前半の日本では乳がんの他、大腸がん、胃がんでも広く使われていました。しかし、手術後に使用した場合、がんの再発を抑制できるかということに関しては、専門家の間でも、賛成派と反対派に意見がわかれる状況でした。一方、欧米でも、胃がん、大腸がんでは、当時、手術後に標準的に使用される治療方法が定まっていませんでした。そのため、これらの疾患では、手術後に抗がん剤治療をしない場合と手術後にテガフール・ウラシル配合薬のランダム化比較試験を行う必要がありました。そこで、乳がん、大腸がん、胃がんの三疾患を対象に、国立がんセンターを中心に大学病院、基幹病院に協力を呼びかけ、全国規模での「多施設共同臨床試験」が開始されたのでした。一九九五年の事でした。乳がんでは、術後抗がん剤治療として、CMFとテガフール・ウラシル配合薬のランダム化比較試験を実施することになり、私はその試験の責任者に任命されたのでした。数百人の乳がん患者さんの協力を得て、国民からの税金を研究費として使用して実施する試験ですから、それこそ不退転の決意で臨まなければいけません。まず、取りかかったことは、試験を実施するための中核となるメンバーをきめ、運営委員会組織を構築することでした。私の同僚の腫瘍内科医師、乳がん手術を専門とする外科医師、国立がんセンターとはライバル的存在であった癌研究会附属病院の病理診断学の先生、大学の統計学専門家、被験者となる患者さんにどのように説明をするかという倫理的な面を専門としている看護研究者、集まってくるデータをどのようにまとめ解析するかを研究するデータマネージメント責任者、患者さんの生活の質(QOL:クオリティーオブライフ)を研究している医師など、異なる領域の専門家に、臨床試験という共通の目的を達成するために協力を依頼しました。まさにチームビルディング力が求められたのでした。