ASCOのインパクト その一


確かにすばらしい結果です。Plenary sessionの最初の演題で登場したDuke大学腫瘍内科のDr. Kiberly Blackwellは自信に満ち溢れた態度のように見えました。この試験は、HER2過剰発現を有する乳癌で、術前か術後、あるいは、再発後に必ずハーセプチンとタキサン使用済み、カペシタビンは使用していなくて、再発後の一次、二次治療まで実施している症例が適格です。対照治療としてラパチニブとゼローダの併用を置き、試験治療として、トラスツズマブエミタンシンを検討します。この薬剤は、トラスツズマブ(ハーセプチン)に、パクリタキセルの20倍強いチュブリン阻害作用をもつ抗がん剤DM-1 を結合させたもの。HER2タンパクを過剰発現しているがん細胞の表面にトラスツズマブでもってがっちり結合し、そのまま、細胞の中に取り込まれてリボゾームで分解され、放出されたDM-1が細胞分裂をG2からM期で阻害する、という仕組みで効果を発揮します。どうやら、今まで主役だったトラスツズマブは、格下げになり、付き人みたいな感じで、DM-1様を、仕事場にお届けするような役回りに配置換えになる、そんなイメージです。ちなみに、この試験のニックネーム、EMILIAは、シェークスピアの戯曲「オセロ」の女性主人公、デスデモナの下女の名前だそうです。つまり、ハーセプチンは、下女としての働きをするわけです。1990年代のはじめから、ハーセプチンを手塩にかけて育ててきた私としては、20年の後、かわいい娘を奉公にだすような気持ちです、そんなあほな。話が少し横道にそれました。この試験の、主たるエンドポイントは、無増悪生存期間と、全生存期間、事前の計算では、508人でイベントが発生し、2群間のハザード比が0.75となることを90%の検出力、両側検定で5%有意水準で検出するために、980症例症例を対象予定としました。また、無病生存期間での差が認められたら、引き続き全生存期間をエンドポイントして、ある程度以上の差がでたら中止とする有効中止基準を設定しておいた上で、合計632 人が死ぬまで、そして、ハザード比が0.80となることを80%の検出力、両側検定で5%有意水準を設定し検出することとしています。最終解析は2014年を予定しているそうです。試験に実際に登録された患者は両群合わせて、991名でした。が、今回の発表は、569人が再発したので、ほぼ、当初の計画どおりに中間解析を行ったものです。

さて、Dr. Kiberly Blackwellは、試験の骨子、どれぐらいの患者が登録されたか、両群で目立った、問題となるような差はないことを述べた後、一息ついてから、スライドが変わる前に言いました。「では、これから、結果を発表します。」、そして、無病生存期間の比較を示すカプランマイヤーカーブのスライドが提示されたとたん、会場からは、ウオーという静かなどよめきが起こったのでした。(近いうちに続きを書きます)

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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