ASCOのインパクト その二


試験の結果では、PFS,OSともに有意差が出ています。PFSのカプランマイヤー曲線では、最終症例の登録が昨年の10月で、この発表に使用されたデータの解析日が今年の1月なので、「打ち切り」を表すひげが、カーブ全体にわたって立っています。そもそも「打ち切り」とは何ぞやを知らないことには話になりませんが、がん情報局の基本講座、用語集で説明してあきますからよく勉強してみてください。それで、ひげが全域にわたっていると言っても、登録症例の50%以上が再発しているわけですから、カプランマイヤー曲線の基本の形は今後とも変わりません。この試験は、PFSイベント、すなわち増悪が認められて時点でも、クロスオーバーは認めていません。しかし、死亡割合に、ある程度以上大きい差がついた場合には、その時点で、試験中止となる、というとりきめです。今回の解析で、OSでは、ハザード比は0.621 (95% CI, 0.48, 0.81)、P=0.0005です。しかし、事前に決めた有効性の境界線は、P=0.0003 またはハザード比0.617ですから、それはこえていない、だから、まだ、試験は継続、クロスオーバーは認められていません。現時点では、死亡数は両群合わせて、
223例、登録症例の20%程度です。まだまだデータは成熟していないので、さらに追跡が必要なわけです。もし、それは、非倫理的だという主張で、この時点で、クロスオーバーを許容する、ということになったらどうでしょうか。OSの差は認められなくなり、第二のアバスチンになります。そして、TDM1不要論が出て来るでしょう。臨床試験は、微妙な状況です。もし、非倫理的というのなら、現在の患者、試験に参加した患者、将来の患者、だれからみて、非倫理的というのでしょうか? 試験に参加した患者は、私の命をどうしてくれる!と主張するかもしれません。しかし、将来の患者、不特定多数の患者、今は健康だけど、いつHER2陽性乳がんになるかわからない人たちにとっては、しっかりOSまで評価して、この薬剤の真の有益性を確認しておいてもらわなければこまる、ということが言えます。また、別の見方をすれば、利己を優先させるか、、利他を優先させるか、と考えることもできます。この世の患者の利己を優先させてデータが未熟な現時点でクロスオーバーを認めてしまうと、OSには差がなくなりTDM1が第二のアバスチンになってしまいます。世界医師会は、人間を対象とする医学研究に関わる医師に対する指針を示すための倫理原則として、1964年以降、ヘルシンキ宣言を発展させてきました。最新版(2004年改訂)の第4項には、「医学の進歩は、最終的には人間を対象とする試験に一部依存せざるをえない研究に基づく。」とあります。もし、ネズミ、モルモットなどを対象とした前臨床試験で100%薬の良し悪しが確定できれば、ヒトを対象とした臨床試験は不要で、PFSだ、OSだと、もめる必要はありません。遺伝子解析などで、個人個人の反応性が予測できるようになる、そんな時代がきっと来るでしょうが、いまはまだ、その段階には達していないのです。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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