腫瘍内科医からみた手術の意義


約30年前、私が腫瘍内科医になった頃、大腸がん、卵巣がんでは抗がん剤ははなはだ非力で手術が王道でした。しかし、抗がん剤などの薬物療法の進歩は著しいものがありますゆえ、現在、手術対薬物療法のバランスオブパワーはどうなっているでしょうか。

現在でも初発の大腸がんでは依然として手術の役割は大きいです。また、肝臓に転移した場合でも切除で寿命が延びる、治癒できることが証明されています。大腸がん肺転移も世界中で得られてきた長年の経験から数個以下の転移なら切除が当たり前とされて、ガイドラインにもそう書いてあります。ところが、切除の意義、つまり寿命が延びるのか、病気を治癒させることができるのかということを、きちんとした科学的な方法で検討されたことは一度もないのです。技術的に切除できるので、大腸がん肺転移を繰り返し、何回も切除するという話はよく聞きますが、ひょっとしたら手術してもしなくても寿命は変わらないかも知れません。他臓器に広く転移した大腸がんでは、複数の抗がん剤、分子標的薬剤を組み合わせることで、寿命が2-3倍に伸びるようになったのですから、肺転移を繰り返し切除することの意義はますます薄れているのではないでしょうか。
卵巣がんに対し現在、パクリタキセル、カルボプラチンなどの抗がん剤が著明な効果を発揮するようになりました。しかし、今でもお腹の中全体に広がった卵巣がんに対して、できる限り多くがん組織を取り除く「腫瘍減量手術」が行われます。その理由は、卵巣がんは抗がん剤がよく効くので最初の手術でできるだけ多く腫瘍を切除しておいた方が化学療法の効果も良好で、患者さんの平均生存期間が長い、ということになっています。しかし、これも手術する、しないを比較したデータはないのですが、長年の経験から手術が必要と言うことになっているのです。大腸がんも卵巣がんも、薬物療法がここまで伸びてきた現在、これらの手術が本当に必要なのか、腫瘍内科医としてははなはだ疑問を感じております。

広告

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

“腫瘍内科医からみた手術の意義” への 1 件のフィードバック

  1. 若年性乳癌の患者です。初診の時に「全摘しかない」と言われた事が、とてもショックでした。あるべきものがない、事の方が、自分が今、癌が転移していることより、はるかに辛い事です。『悪いものは取ればいい』そう思える人と、思えない人が居る事、そして、そう思えない人に、本当に最善の方法を一緒に考えてくれる、そんな医療環境になって欲しいと強く願います。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中