がん診療の個別化をめざす動きはますます加速しています。今回のASCOでは会期前に開催された2日間のセッション「遺伝学(genetics)と遺伝子学(遺伝子学)」に参加しました。かつては、顕微鏡でみることのできる染色体異常を病気の主座と考えていた遺伝学が遺伝子の病気という認識に急速の拡大していったこと、2004年にヒトゲノムの全容が解明されるほどに遺伝子(ゲノム)の研究手段が急送に進歩しています。そして、遺伝学と遺伝子学は一つの学問体型として癒合して、がんの領域ではHuman genetics and Cancer genomics としてとらえるのがしっくりきます。メンデルとワトソン・クリックからの流れが学問として圧倒的な魅力のある領域に発展してきています。おもしろい、実におもしろい領域であり、また、大部分のがん患者の治療に関連する学問である、ということを再認識しました。個別化治療のためには、個人個人の遺伝学、ひとりひとりのがんの遺伝子学が基盤にあり、究極の個人情報である遺伝子配列にせまっていく必要があるわけです。昨日、アーマン・ブズダー先生と双璧をなすガブリエル・ホルトバジー先生が、Bolero 2試験の、後付予測因子解析の結果を発表しました。結果は、大山鳴動して鼠一匹・・・という感じでしたが、次世代シークエンサーでもって変異遺伝子を片っ端からしらべ、変異のある4つの遺伝子をとりあえず指定し、それが、どのような予後因子、予測因子としての意義を持つか、ということを、あーでもない、こーでもない、と探索した、という研究です。あくまで探索ですから、探検、冒険みたいなもので、そこに山があるから登るんじゃ、みたいな段階でしょう。これで、こっちのルートでいけそうだ、あっちを通ればオアシスに行けるかも、と言うことがわかってくると、では、そのルートがどんなもので、どれぐらい安全で、確実か、という検証的な段階に入っていくわけです。なので、今は、これをやってみました、よさそうですよ、という段階。PIK3CAの変異が半分ぐらいにあって、シグナルトランスダクションの下流には、mTORUがあるわけですから、ルートとしては間違っていないようにも感じます。お金があれば、どんどん冒険すればいいでしょう。Bolero試験のスポンサーは、日本では今、いろいろと話題になっているノバルティス社ですが、道を踏み外さず、遭難しないように進むことができるかな? 遺伝子ハンティングレースは、チキチキマシン猛レースみたいなもんですね