アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーが、乳がんになりやすい遺伝子の検査の結果、陽性だったので、乳がん発症前に両側乳房を切除したことが報道されてから、「娘がいるのですが遺伝子検査は必要ですか。」という質問を患者から多く受けます。また、不要な乳房切除を希望する患者がいるという話も耳にします。遺伝子とは細胞の設計図のようなもの、その設計図に記載ミスがあれば、細胞の正常の働きが損なわれ、がんになる場合もあります。アンジェリーナ・ジョリーはBRCA1、2(ビーアールシーエーワンとツー)という遺伝子に変異、つまり記載ミスがある、親から子に乳がん、卵巣がんが遺伝する病気(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)だったようです。大きく報道されたので、不安になった患者も多く、診療の現場では混乱が生じました。この遺伝子異常が原因で乳がんになる人は乳がん患者全体の5-6%、つまり、乳がん患者の20人に1人程度です。20人のうち19人の乳がんは遺伝する形ではありませんから、遺伝子検査をする必要はないのです。日本では遺伝というと、あの家はがん家系だ、というような間違った考えもあり、何となくタブー視するような風潮があります。そして、今まで、BRCA1、2遺伝子検査についても、熱心に研究してきた医師や遺伝カウンセラーの人たちもいるのですが、未だに、保険が使える検査として、どこの病院でも実施できるという体制にはなっていません。欧米では、どのような乳がん、卵巣がん患者が、この遺伝子検査をうける必要があるのかというガイドラインができています。また、子孫まで伝わる可能性のある病気ですから、検査前だけでなく、検査を受けたあとも、治療の選択などについて患者をしっかりと支援するカウンセラーが多くの病院、診療所に配置されています。日本は立ち後れています。いまこそ、厚生労働省に強く働きかけ、遺伝性がんの診断、治療、そして支援体制を早急に整備しなくてはいけません。