ポイント1 検診の意義
今年の日本乳癌学会でもとりあげたように検診の有用性に対して疑問をなげかけるプレナリ-セッションがアサイチにありました。指摘されている問題は(1) False positive = 擬陽性 (2)Over diagnosis = 過剰診断その1 (3)過剰診断その2 ほっといても悪さをしない「がん」を見つける事の三つです。擬陽性は、がんの疑い ということで、精密検査に回される女性の心理的、精神的負担は結構大きい、という話。過剰診断は、がんはないものをがんと診断してしまう「誤診」と、現在の病理診断の基準からいうと「がん」と分類されるけれど、実は見かけはがんでも、生命の存続に影響するようなことがおきないような状態に対して、手術や放射線などが行われてしまう、ということです。また、かつては治療の手立てが今ほどたくさんなかったので検診で見つけないと命が失われてしまったようながんに対して、最近ではハーセプチンをはじめとする優れた分子標的薬剤や、タキサン、アンソラサイクリンなど、利くときはめちゃめちゃきく抗がん剤があり治療の力が格段に進歩した結果、相対的に検診の効能が低下した、ということもあります。そういうことで「検診の有用性」に疑問が投げかけられているわけですが、検診自体の意義(マンモグラフィで微細な石灰化をみつけてカテゴリー4だの5だのと大騒ぎしてマンモトームやヴァコラなどの太めの真空針生検をしたり、温存手術したり、乳管内の広がりがあるから乳房切除したりすること)は、確かに思ったほど大きくはない(意外と小さい)とはいえ、検診には別の意義があるとの指摘もあります。それは検診活動をきっかけとして「Breast Cancer Awareness(BCA)」つまり乳がんに対する認識、関心、注目、注意度が高くなり、多くの女性が乳がんを気にする頻度が向上し、本当に治療が必要で治療すれば治る乳がん患者が医療機関を訪れる頻度があがるという点、それと、検診活動を通じて検診から治療への流れが構築され「Breast Cancer Treatment Team(BCTT)」が整備されたので、腫瘍内科医、外科医、放射線科医、看護師、薬剤師が同じ目線で治療にとりくむ下地(したじ)ができた、という2点です。今年6月の乳癌学会で取り上げたときは、セッションの進行もまずかったこともあり、あまり問題提起には至りませんでした。また、乳癌検診に命をかけている人々からみると、検診無効論などが定着すると、原発で飯を食ってきた原子力村の人々と同じ運命をたどるかもしれない、という懸念もあるかもしれません。なので、ここらへんで一度、ギアチェンジして、BCA向上とBCTT構築が真に必要な活動であることを共通の認識とする必要があるでしょう。
「BCA向上とBCTT構築が真に必要な活動であることを共通の認識とする」には、賛成です。
検診を啓発する時には、検診のみを進めるのではなく、必ず、乳がんに関する正しい情報提供も一緒に行ない、乳がんに関心を持ってもらい、しこりを触れたら病院に行き、治る可能性が高い時にしっかり病院で診断してもらい治療してもらう文化を育てる、国民教育(がんに限らない健康教育)が必要な気がしています。検診はそれを伝える一つのツールで、切れ目のないサイクルの一部分かもしれません。