病院で亡くなる患者は、医師によって死亡確認が行われ、医師によって死亡診断書が作成されると、遺体が病院から自宅、葬儀場に搬送され、葬儀を終えて火葬されます。事務的に書けばこうなります。しかし、この過程は単純なものではありません。がんの患者が死期を迎えると、病棟看護師から血圧が下がってきました、呼吸が止まりました、という連絡が来ます。その場合、つべこべ言わずに、すぐに医師は病棟に向かわなくてはなりません。そういう時は大概、死亡確認を行わなくてはいけないので、聴診器、ペンライトを携えていきます。正確な時計も必需です。病室に入ると、家族が数人ベッド回りにいます。医師として入室する際は、謙虚かつ厳格な態度でベッドサイドに近づくよう先輩から指導されました。そして、呼吸、心音を確認するために聴診器を当てます。呼吸は下顎呼吸といって、顎の動きが強調されるように、やや苦しそうなので、聴診でなくてもわかります。ということは付き添っている家族にもわかります。研修医時代、この状況でのスキルとして指導医から教えられたことは、「200数える間、呼吸がなければ、そこでもう一度、聴診して、心停止を確認して、ペンライトで対光反射なき散瞳を確認し、自分の時計をみて、○時○○分、死亡を確認いたしました、ご臨終ですと家族に告げる」ということです。国立がんセンター時代には、かなり多数の患者の院内死亡に立ち会ったので、この教えはかなり役立ちました。そこからは家族がベッドサイドに近寄れるように、医師、看護師は、病室の入り口近くに退き、しばらく直立し、ときの流れを待ちます。家族が、先生、どうもありがとうございました、とおっしゃる場合もあります。その場合は、会釈を返します。時期をみて、退室しナースステーションに行き、看護師、研修医などをねぎらいます。そしてカルテに死亡確認記録を記載し、死亡診断書を作成します。看護師はここから、死後の処置を行います。最近では、これをエンゼルケアと呼ぶようですが、海外ではangelcareは、赤ちゃん用品のブランドなので多分、日本で勝手に作った用語ではないかと思います。へんな造語はやめたほうがいいと思います。家族の状況がある程度落ち着いた時点で、ナースステーションに来てもらい、お悔やみを告げ、病状や、死亡に至るまでの経過を説明し、死亡診断書の記載内容を説明します。場合によっては死亡診断書につながった反面が死亡届用紙であることも説明します。病理解剖を家族にお願いする場合には、ここから説明しますが、断られた場合には、死亡診断書をお渡しします。ここまでが医師としての「看取りの仕事」です。