厚労省の医系技官と薬系技官のせめぎ合いの結果、保険薬局での院外調剤が誘導されてきました。今回の診療報酬改訂では、そのせめぎ合いのバランスオブパワーが幾分健全化、つまり医系技官の攻勢の成果がみられ、院外調剤から院内調剤へ多少流れが変わりました。数ヶ月前の新聞に、調剤薬局花盛り、という批判コラムもありました。また、6年間の高等教育を終えて、門前調剤薬局に勤務し、ロキソニン、湿布剤の調剤で一生を終わる意味が見いだせない若き薬剤師の嘆きあり、病院、診療所でのチーム医療、ことさらがん診療においては大切であることが浮かび上がってきました。そんなこんなで、先週の朝日新聞「がん内科医の独り言」ではこんな独り言、書きました。
病院、診療所で診察をうけ内服薬がでる場合、患者は会計を済ませたあと、発行された院外処方せんを持って調剤薬局に行き薬を買います。医薬分業と呼ばれるこの仕組みは、薬漬け医療からの脱却をうたい文句に厚生労働省が推進してきました。しかし支払額がかなり増えること、病院、診療所から薬局まで移動しなくてはならず、患者や家族にとっては負担となる、などの問題があり決して便利な仕組みとは言えません。内服抗がん剤の場合には、さらに問題が加わります。がん診療について調剤薬局薬剤師との連携を図るために開催した勉強会で聞きました。処方せんには、薬剤名、分量、日数しか書いてないので、患者が肺がんなのか、乳がんなのか、はたまた胃がんなのかもわかりませんし、ご病気はなんでしょう、と聞けないことも多いそうです。また、患者の白血球数や腎臓、肝臓機能の良し悪しもわかりませんし、家族が薬を取りに来た場合には患者の全身状態もわかりません。調剤薬局薬剤師は、疑義紹介といって、不明な点を病院、診療所の医師に電話などで確認することが許されていますが、見ず知らずの医師に電話をかけるのもストレスだし、通常は錠数の確認程度で、患者の状態や検査データまで事細かく尋ねることはありません。その結果、納得のいかないまま処方通りに調剤することに不安を抱く薬剤師もいます。浜松オンコロジーセンターでは開院以来、院内調剤を続けています。薬剤師が患者の病状や検査結果を把握し、時には腎機能が悪いので内服抗がん剤の量を減らしたらどうか、と医師に提言することもあります。がん治療は医師、薬剤師、看護師などによるチーム医療が不可欠、医薬分業はチーム医療分断とも言えます。来月からの診療報酬改訂では医療費高騰を押さえるため、高血圧症、糖尿病、高脂血症、認知症について院内調剤を推進する方向に転換される事になります。がん治療薬でもそのようになってもらいたいものです。