「コンプライアンス」ということばを考えましょう。英語で「compliance」、英辞郎には、次の5通りの意味があげられています。(1)〔規則などの〕順守、コンプライアンス、従おうとすること、(2)〔規則などへの〕適合性、準拠、整合性、(3)〔過度に相手に〕合わせること、従順であること、(4)《医》服薬順守、コンプライアンス◆患者が定められた服薬を守ること。(5)《物理》弾性コンプライアンス◆物体の変形のしやすさで、弾性率の逆数で表される。
私が最初に出会ったのは北大第一内科の研修医の頃に(5)の弾性コンプライアンスの意味です。呼吸機能検査で肺の柔らかさを表すときに、コンプライアンスが高い肺、低い肺、という使い方で使います。肺繊維症、間質性肺臓炎などは、肺が膨らみにくくなる、硬くなる、コンプライアンスが低くなる病気、一方肺気腫などは、コンプライアンスが低くなる病気と習いました。次に出会ったのが 4)の服薬順守、患者が定められた服薬を守ること、です。国立がんセンターレジデントのとき、UFTなどの経口剤を巡る議論の中でした。がんの告知もなく、胃がんの患者にたちの悪い胃潰瘍と言って処方しても、患者は内服すると具合が悪くなるので内服しないで、すべてゴミ箱に捨てている。このようにコンプライアンスが悪い状況で、年間1000億円を稼いでいる柏戸薬品はけしからーんという話になりました。この服薬状況を意味するコンプライアンスは、「医師が主人として一方的に定めた服薬スケジュールを患者が下僕として言われた通りに服薬する」という意味なのでよくない、ということで「adherence: アドヒアランス」を使いましょうということになりました。しかしこれも「医師が冷徹に定めた服薬スケジュールに患者が几帳面に執着して言われた通りに服薬する」というような意味でたいした違いはないように感じます。それで最近では、医師と患者が一致して協調して理解し合って薬剤の服薬をしっかりしていこう、ということで「concordance: コンコーダンス」を使ったらどう、ということになっていますが、なんか、意味が曖昧だなー・・・。
それで、最近うっとうしく感じていることに関する意味が(1)〔規則などの〕順守、コンプライアンス、従おうとすること、です。意味のある正しい規則ならば順守するのは当然ですが、くだらない、馬鹿げた、製薬業界の取り決めに対してコンプライアントである必要があるのか!!! というのが私の主張ですが最近ではこの主張もむなしくこだましています。詳しくは、「小粒コンプライアンスばばあ」の話を参照してください。