どんなことが起きれば薬が効いたというのでしょうか?「睡眠剤飲んだら朝までぐっすり眠れました。」「痛み止めを飲んだら頭痛がうそのように消えました。」などのように、求める効果がすぐに現れる場合にはその薬が効いたということがわかりやすいです。がん治療薬の場合、一般的には長生きができる、つまり延命効果があり、しかも、副作用が軽ければそれが一番よい効果と考えられています。しかし、ひとりひとりの患者にとって、治療を受けた結果、自分の寿命が延びたことを実感することはなかなかできないものですから、薬が発売される前に臨床試験で延命効果がきちんと証明されることが必要です。約七百人の乳がん患者の協力で行なわれたアフィニトールの効果を調べる臨床試験では、ホルモン剤だけの場合、がんが小さくなっている期間が三・二ヶ月であったのに比べ、ホルモン剤とアフィニトールを併用すると七・八ヶ月に延びたという結果でした。口内炎や肺炎、糖尿病、強い倦怠感などの副作用はあるものの、がんが小さくなっている期間が二倍以上に延びたということで、厚労省はアフィニトールを乳がん治療薬として承認しました。ところが、その後の検討で延命効果は、認められないという結果が発表されたのです。これに対して、「副作用が強いのに寿命は延びないのなら、がん治療薬としては失格ではないか」という専門家の厳しい意見もあります。一方、HER2陽性というタイプの乳がん患者約八百人の協力で行なわれた分子標的薬剤「パージェタ」の効果を調べる臨床試験では、ハーセプチンと抗がん剤「タキソテール」による治療では四十一ヶ月であった寿命がハーセプチンとタキソテールにパージェタを加えた治療では五十七ヶ月と、十六ヶ月も延び、しかも副作用はあまり強くないという結果が報告されました。パージェタによるこの延命効果は、かつて前例がないぐらいの大きさの効果で、治療を受ける患者の中には全身に広がったがんが完全に治るということも決して夢ではありません。