科学と経験の差、治療効果を考える


治療効果を表すのに「期間」を用います。インフルエンザ治療薬のタミフルの効果を調べる臨床試験では、診断確定後タミフルを内服した人では三十八℃以上の有熱期間は三日、タミフルと見分けのつかない偽薬を内服した人では四日、つまりタミフル内服で有熱期間が一日短縮するという結果でした。この結果を見て、たった一日の差なら内服しないで我慢しておこうと思う人もいるでしょう。しかし、インフルエンザに罹患し高熱で苦しみタミフルを飲んだらすぐに解熱しそれまでの症状がうそのように楽になったという経験のある方もたくさんいます。このように、科学的に厳密に比較した効果と、日常診療で体験する効果の間には、その大きさにずいぶんと差があると感じる事がしばしばあります。膵がんは難治がんの代表選手、手術できると診断される患者は3割、手術できないと診断される進行がん患者では標準治療である注射の抗がん剤、ゲムシタビン治療を行なった場合の生存期間すなわち寿命は半年程度と言われています。ゲムシタビンと他の薬剤を併せて使用して寿命を延ばす事ができないかと、今まで世界中で約二十種類の薬剤がゲムシタビン単独との比較試験で検討されました。その中で唯一、追加効果ありとの結果が得られたのが飲み薬のタルセバです。ゲムシタビン単独の場合の生存期間が5.91ヶ月、ゲムシタビンとタルセバを併用した場合は6.24ヶ月で差は0.33ヶ月、つまり約10日でした。この結果を聞いて、たった十日の差なら副作用や金額のことを考えてタルセバは併用しないという患者も多いと思います。この差は科学的に厳密に比較した効果ですから正しいのですが、我々は、ゲムシタビンとタルセバを併用して驚くほど長期間、効果の続く患者を日常診療で経験することがあります。このように、科学的データと日常診療での経験の間に感じられる差を適切に解釈して患者に上手に説明し最大限の効果が得られるような治療を選ぶのが腫瘍内科医の仕事なのです。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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