お薬手帳で情報共有


がん治療の薬には注射と飲み薬があります。注射の場合には、治療のために毎週病院に通わなければならないこともあります。飲み薬ならば、月に一度の通院で治療を続ける事ができますから便利と言えると思います。患者は診察後、病院で発行された院外処方せんを持って街の調剤薬局に行き薬を調剤してもらいます。ふたつ以上の病院や診療所にかかっている患者では、薬の飲み合わせに注意しなくてはいけませんが、薬の専門家ではない患者が正しく判断するのはかなり難しいです。そこで現在、広く活用されているのが「お薬手帳」です。これには医療機関から処方された薬の名前、分量、日数が印刷されたシールが整然と貼られ、それを見て薬剤師や医師が薬の飲みあわせや、同じような効果の薬が重複して処方されていないか、などをチェックすることができます。お薬手帳は20年前に起きた事件の反省から生まれました。抗がん剤フルオロウラシルを内服中の患者が帯状疱疹にかかり、別の医療機関の皮膚科を受診しソリブジンが処方されました。ソリブジンはフルオロウラシルの分解を妨げるので、ふたつの薬剤を同時に内服すると、フルオロウラシルの血液中の濃度が異常に上がり、白血球や血小板が減って感染や出血など、強い副作用が出現し、死亡者が続出したのでした。皮膚科の医師に、がんの病院からフルオロウラシルが処方されていることが全く伝わっていなかったことがこの事件の原因でした。つまり、情報の共有ができていなかったのです。今でも「お薬手帳」を使わない時代遅れの診療所がたまにあります。処方されている薬を見ればわかりますが、他の医療機関にかかっているということを言わない患者もいます。これはA病院、そっちはB診療所と二冊も三冊もお薬手帳を持っている患者もいます。これでは、お薬手帳の意味がありません。最も多いのはお薬手帳忘れました、という患者です。これでは情報の共有ができません。お薬手帳も今後進化して手帳を持ち歩かなくてもインターネットで個人個人の処方内容とか、検査成績なども参照できるようになるでしょう。そうすれば薬剤師会会長さんも穏やかに見守ってくれると思います。

 

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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