数年前、いや十数年前になるけど、ハーセプチンの治験に当事者としてかかわっていた時、当局(厚生省医薬安全局とか、今でいえば医薬品機構とか)は、「モノクローナル抗体」という新しい範疇の薬剤であることに対して異常に敏感で、過剰に対応して、安全に、安全に、慎重に、慎重に、ということで対応を要求してきました。しかし、それは、あまりに過剰でブレーキかけまくりだよ、そんなことしてたら、先に進まないじゃん、というような感じでした。最初の症例で、ハーセプチン点滴直後、エクソシストのようにベッドががたがたと音を立てるほどの震えがきたものでしたが、それはインフュージョンリアクションであって、ネズミ成分に対する異物反応だから大丈夫!! 驚いたことは驚きましたが、想定内ということで先に試験を中止したりしませんでした。国がん東のささきのやっさんは、症例もいれないくせにつべこべ言うばかりでしたが、東海大の徳田先生の協力で一気に治験を仕上げ、途中で、三菱から日本ロッシュに開発会社が変わりましたがアメリカから遅れること1年で日本での承認を取得したのでした。それでも、HER2検査日をレセプトに書かないといけない、とか、くだらない付帯事項がつけられたのでした。これは今でも続いていて、かなり煩わしく、意味もないので、もうやめようよ、と中外山口さんに言っているのに当局は相手にしてくれないそうです。
最近は、バイオシミラーとか、DDS製剤、ナノテク製剤など、また、あたらしいカテゴリーの薬剤が開発されています。そして、また、当局は、新しい範疇の薬剤だから安全に、安全に、効果はどうでもいいから慎重に、慎重に、と時間とお金のかかるような開発手順を求めてくるようです。そうこう、もたもたしているうちにバイオシミラーなんかは、シンガポールとか、ベトナムとかで一気に開発が進んじゃって、日本は遅々として進まずになっていますし、ますます周回遅れ。とうきょくくんがブレーキをかけるのは仕事だから仕方ないけれど、開発会社も治験責任医師も効果安全性委員会も、だれもアクセルを踏まず、みんなでブレーキの踏み比べをしているようです。効果あっての薬剤なんだから、わが社はこんなに良い薬剤を開発したんだから困っている患者さんに一日でもはやく届けたい、効果があれば多少の副作用はしょうがない、というぐらいの情熱大陸のほうがいいのではないか、とすら思います。ブレーキは一つで十分というのは、そういうことであります。(archival presentation requested by Mr.Jindou Itoh)